* 裏本 五十歳、歯学部へ行く。( 体験記・医療系 ) * * *   < kujila-books ホームへ帰る >

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 人生に免疫力無き方、読む事なりまッせん

第 1 章 * 1 / 5
我が29期の卒後十年目
< 明海大歯29期の卒後十年目 >



我らの卒後十年は瞬間だ。
明海大歯学部二十九期、現役ストレ〜ト入学して
入学時 18 歳だったピッカピカの女の子も、
今や肌の衰えを気にする 35 歳のオバンである。
男ならオジンだ。

65 歳のワシは別格官幣社なれど、
五十歳に手が届くの、二十九期には
数名居(お)ってナ。
四十歳上なんてザラのザラ。

これが医学部となると、
国試合格時が五十歳など、ゴロゴロ。
医学部歯学部は或る意味、魔宮と言える。

浪人して入学遅れ、留年して卒業に手間取り。
国試浪人、十年位やらかして、
人生の華の年代、全部使い切ったりすると、
オレの人生って何だったのかの疑問となる。

そう言う人生も如何なものかと思う。
歯科医師に成ってもだ。
年収一億超の勝ち組先生は高笑いなれど、
歯科医師の三分の一、年収三百万以下だそうだ。
還暦越して、ワシもその範疇。

この頃は餓死しない程度に働いて、
後は不貞寝に決めとる。
それやこれや禁酒の張り紙眺めつつ、
竹鶴抱きて、かくの如き、よし無き原稿を書くも、
浮世の憂さを晴らさんとての、しがない抵抗さ。

この裏本、表に出せないボツ原稿。
出したが最後、無事に済まぬ代物だ。
麻薬みたい命懸けの裏本よ。
よって活字には絶対成れぬ。

その意味、インターネットは恐い。
勝手が利いてしまう。のでありますから、
心臓の弱き方、人生免疫力の乏(とぼし)き方。



読む事、なりまッせん


*     *     *




どんな世界にも存在する、天と地の格差。 勝ち組と負け組の大差。
歯科医師の世界にも厳然としてある。

年収数億の先生は勝ち組だ。 月間患者数、たったの 10人から
30人クラスの先生は、廃業寸前の負け組。



支払い機構へ提出の、保険治療代金請求レセプト。 東京都の電話帳
二冊分くらい、ドサッと出すよな派手派手先生から、

たった二十枚。 吹けば飛ぶよな丸貧( まるび )先生まで。
テレビに出る歌手と同じで、歯科医師も人気商売だ。

天国と地獄の差だ。



その差、何処から来る ?  その差を解決する上手い手は、存在
するのか ?  も考えて見る。

誠に現実は千差万別だ。 患者でごったがえす待合室が有るかと思え
ば、閑古鳥、寂しくさえずる歯科医院まで、

歯科医師の世界も、勝ち組と負け組の人生模様の戦場だ。



   *       *       *



ワシかっては頼まれて行く、助っ人歯科医師みたいもの、してた。
そんなのやってますと、呼ばれて行く先、

患者多過ぎて悲鳴のとこばかし。 だもんで世の中、ついついこん
な物かと思ってしまって、浮いた浮いたのアホ先生とは成る。

人生、注意が肝要だ。




世の中少子化時代。 定年退職、年金暮らしのジジババで人口の四
分の一を占める時代だ。 こんな時代もやがて変化する。

その変化までの、つかの間の勝機を求めて今を生きる我ら。 歴史の
万華鏡の、一瞬間を眺めてる我ら。



その中の歯科医師界の、極小部分でうごめく我ら。 ワシが描かん
とするものこそ、正にその一瞬間の、一断面だ。

この裏本、世に裨益( ひえき )するや否やは知った事に有らず。
吉田兼好のとぜんそう( 徒然草 )でも無いが、



物狂( ものくるをし )いから書いてるだけだ。 余念有るべくも
無し。 その程度の代物(しろもの)だ。

以下、気楽に読んで頂きたし。




**************************************************************



< 開業一番乗りは、丹沢君だった。>



卒後二年目あたりから同級生の開業が始まった。 卒後十年とも成れ
ば、開業する程の者、あらかた開業と違うか?

昔は卒業と同時の開業。 さして珍しくなかった。 その理由、
卒業前の大学での臨床実習。



実際の患者相手に、神経抜くの何個、インレイ何個、入れ歯を何個。
てな具合に、ノルマが有って、

それを仕上げぬ限り、卒業出来ない。 そんな物、仕上げたから言う
て、一人前の歯科医師と言えるかどうかは疑問なれど、

とにかく、ノルマが有った。



ご本人、もうこれで歯科医師の仕事なら何でも出来ると思えば、
卒業と同時に開業と成る。 そんな先生、昔はザラに居た。

だけど最近は大学、学生に患者を触らせぬ。 アシストに毛の生え
た程度。 よってその手の開業、絶えて聞かない。 



その絶滅した筈の稀少種に、丹沢君が成ったのだ。 丹沢君、入学時
お父さん 80歳。 丹沢君、お父さん 60歳の子

。 その時のお母さん、年齢が30歳、超美人と思う。 丹沢君の顔見て
ワシ、そう考えた。



お父さん、先妻は病死しとるから先妻の子、丹沢君が明海大歯学部
入学時には 50歳を超えている。

ワシの入学が 50歳だ。 丹沢君の異母兄弟、ワシより年長だっ
たわけだ。 言わゆる、お父さんみたい年齢のお兄さん。



お父さんは、お爺さんみたい年齢の お父さんだ。 これを ジット
と呼ぶそうナ。

ホントかいな?



   *       *       *



この 80歳のお父さん、開業歯科医と来りゃあ、年が 60歳も離れ
た息子、歯学部へ進学して、あらうれしや。

この息子に医院を継いで貰いたい気持ち、痛い程分る。 お父さん
80歳、余命いくばくも無し。

実際、丹沢君の在学中に 83で死去しとる。



で、お父さん、この息子に、どうしたかと言うと、入学時から臨床を
させた。 と言うても大学と実家は遠い。

手伝いは土曜日だけであったが。



歯の神経抜くを エンドと申す。 冠(かぶ)せ物の為に歯を削るを、
支台歯の形成と言う。

歯科医師なんてね、歯が削れて、印象が取れりゃ、開業できるのよ。
卒業して、初めて歯を削りました。



なんて言うとった先生が、一年で開業する。 そんな世界だ。 レベ
ルを言えば切り無いが、取り敢えずの開業なんて、

そんなモンなのよ。 これまでにワシの傍から開業して行った若い
先生、四名、居られる。



センセ、もうチョッと勉強してから開業しなさいよと、言いたくな
る先生の、無きにしも有らずだ。

丹沢君、お父さんの意思にて、学生時代から臨床す。 卒後、研修所
へ行くよな話も耳にしたが行かずして、



ストレ〜トに開業した。 開業、言うても、お父さんの残した歯科
医院の再開だけど、分類上、開業だ。

んだけど学生時代の臨床、歯科医師法違反だぜ。 完璧にナ。 丹沢
なんて田舎だから、問題に成らず。



   *       *       *



だけどこの手の歯科医法違反、以外と多い。 ワシの大学時代、ある
先生から、こんな話を聞いた。 このセンセは助教授だよ。

ボクなんかね、学生時代からインレ〜、普通に掘ってたよ。 アル
バイト先の先生、掘れって言うから掘ったが、



2〜3回でコツ覚えてね。 後は普通にタ〜ビン使ってた。 君等も
チャンス有ったら、ドンドン削ってみる事だ。

後で必ず役に立つ。 大学の実習、スイスイに成る。 あんなもん、
経験だよ。



ハラハラドキドキの初心時代を早目に通過した者が勝つ。 医師法
違反だの何だのと、言いたい奴には言わせとけば良い。

ボクは経験しておけと、君らに言う。



   *       *       *



これをワシ等に言うた先生、その後大学を辞めて開業した。 ワシも
実は、先生の説に同感だ。

歯学部の後輩学生に、どんどんやれと言うとる。



だから丹沢君は、一番良い道を歩いたと言える。 歯科医師法違反
が恐くて歯科医師が出来るかッてんだよッ

と大見得を切りて、まずは冒頭の一話とす。



   *       *       *



聞くけど、歯学部の学生が患者の歯を削ったと言うて、御用に成った
話。 有るかね?  聞いた事、無い。

今度、弁護士に会ったら聞いてみよう。 最近の傾向は患者からの
垂れ込みだ。 これが増加しつつある。



知る如く、レントゲンのスイッチを押して良いのは、医師と歯科医
師と、この両者の管理下にあるレントゲン技師の三者だけ。

だけど歯科医院へ行って見ろ。 無資格の助手のおんなの子、無造作
にスイッチ押しとる。



こんなんは歯科医院の、極(ごく)ありふれた日常風景だ。 かく言
うワシも学生時代、歯の治療で歯科医院へ行った折、

歯科衛生士(の有資格者)でも無い中年の歯科助手が、レントゲンの
スイッチ押した。



卒業してワシが勤務した歯科医院でも、そんなの当たり前田の行為
だった。 んだけど、あれ違法行為。

その違法性を知った患者、最近警察へ、やたら電話する。 これが
無茶苦茶多くて警察も困ってるそうだ。



日本全国で年間、数千件だそうだ。 こんなの捕まえても大した手柄
に成らない。 せいぜい止めて下さいの電話してお仕舞い。

あれも駐車違反みたいに点数制にして罰金払わせれば激減するだろ。
歯科医師は細かいからねえ。



卒業してワシの知った事。 歯科医院は違法の山塊だ。 診療報酬の
不正請求なんぞ日常業務。

だから皆さん、ごちゃごちゃ警察に電話すんじゃねえよ。
ホンマ。



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< 黒ちゃんとの愉快な対話 >



ワシ、黒ちゃんに言ってある。 君を書くから覚悟しとけよと。
理由は簡単だ。

黒ちゃん、ワシに嘘言うたから。 嘘言うた奴には、遠慮せぬのが
くじらBOOKS の、基本姿勢だ。



大学時代だった。 ワシ黒ちゃんに聞いた。 おいッ、A子とは、
何処まで行ったのだと。

黒ちゃんいわく、何もしてませんよ。 半年ですよ。 半年では何も
出来ませんよ。 手を握ってキスしたくらいです。

ホ、本当ですよ。 信じて下さい。 何もしてません。



ワシ、信じられんなあ、など言いつつも、本人が余りに否定するから
ま、そんなものかと思ってた。

卒業して歯内療法学講座へ入局して、一ヶ月目の頃だった。 鉢ノ木
君、ワシに言うていわく。



黒ちゃん知ってますか? あいつ、A子とオフェラまでしたそうで
すよ。 黒ちゃんの言うにはね、今まで

何人もの女の子にオフェラして貰ったけど、A子みたい上手な子は
居なかったそうですよ。



   *       *       *



それ聞いてワシ、眼(め)を剥(む)きて唸(うなって)しまった。
黒ちゃん、ワシには、キスまでと確言しとる。

それが、オ、オフェラまでしてた、だとうッ




これは許せない。 ワシ、黒ちゃんに処刑を宣告した。 と言うの
が、この部分の底流にある。

読者たる者、それを心得たし。



   *       *       *



黒ちゃん、男前では無い。 にもかかわらず女の子の出入り、多い。
ひょうきんと言うか、軽はずみに近いタイプ。

それが女の子に持てる秘訣、なんだろうか?



東京は台東区の産。 父親、歯科医師。 三浪だったか四浪だった
かして本学(明海大)歯学部へ入学。

二年次に留年。 しかし、その後はまじめに勉強して、ライセンス
まで足踏み無く精勤。



卒後三年目だったかに、同級の愛称、ノムさんと共同にて歯科医院を
開業。

医院の名称、ふたりの名を合成して村田歯科。 この歯科医院は、
今も有る。



ワシ、黒ちゃんに言うたった。 何の積りで、そんな馬鹿をしたの
かと。 ノムさんは、お茶飲み友達としてベストである。

しかし一緒に事業する相手では全く無い。 何を血迷ったか?
まあ良いとこ、三年だろうと、言うた通りに三年目。



黒ちゃんとノムさんは別れた。 別々に成ったのだ。 しかしワシ
ちょっと驚いた。

ワシはてっきり、黒ちゃんが追い出されると見てたから。



実際は、黒ちゃんが村田歯科医院を継続。 ノムさんが出て行った。
三年で別れるは当たったが、ノムさんが出ると思わなかった。

黒ちゃんが追い出されると思ってたから予想はハズレである。



   *       *       *



この黒ちゃん、何故かは知らねど、やたら女の子に持てる。 しかも
リピ〜ト率がやけに高い。 さらに長続きもする。

常時、いちダ〜ス内外の女の子に連絡が付くそうな。 面倒見が良い
からだろうか。 参考にされたし。



横から見てると黒ちゃん、好いたの惚(ほ)れたのと言う、わずらわ
しさから解放されて、セックスだけで付き合える男の子の感じ。

これが黒ちゃんの売りなんであある。



   *       *       *



だから明海大歯(は)へ入学してホヤホヤの五月。 A子が黒ちゃん
に白羽の矢を立てたのは、慧眼(けいがん)だと言える。

このA子、なかなかに難しい女でナ。 これ書いてる時、38歳だが
まだ独身。 職場、男の子がワンサカのとこなのに、A子、

男日照り。 そう言う女だ。



彼女の鼻相、横から見ると、ヌラッとして脂切った鷲鼻。 余(あん
ま)し高くは無いが、これ強性欲の証(あかし)ではある。

物凄くスタミナの有る鼻相なのだぞ。 並みの男では身が持たぬ。



さらにA子の全身骨相を見れば、その強さ、いや増しに強しと知る。
腰から尻(ケツ)の曲線は日本人離れして、

堅太りの肢体なんぞ、生な男のチンチン力では太刀打ち出来かねる
肉体なのだ。



いわゆる絶倫女の典型。 胸、豊かにして形良き超ボイン。 A子を
廊下に置いて、遠くから眺むれば、そのプロポーション、

セックスの為に生まれて来た化身かと言いたく成る程の、グラマラス
な曲線美。



脚のバランスが絶妙でな。 足首(あしくび)、キュッと引き締まり
かの部分、さぞかし絶品ならんと、

ついつい思ったりしたもんだ。 以上、余談につき忘れてくれい。



   *       *       *



こんなA子が、何故男日照りに苦しむかと言うと、つまり彼女は、
超金持ちの、超我がまま一杯の、

いささか手に負えぬタイプの女だからだ。



肉体的には絶品なれど、精神的心理的に問題が有り過ぎて、恋人に
し難い。

彼女と結婚した男、苦労するだろう。 ただし超億万長者の、
一人娘だから、その辺を目的にしての結婚なら、

ワシ、何も言う積り無し。



志願したき向き、連絡されたし。



   *       *       *



黒ちゃん、ワシに言うた。 A子と半年付き合ってたら、彼女の方
から別れましょ言うて、ボク、ポイされました。

ボク捨てられたんです。



彼女の言うには、わたしみたい良い女が、あなたみたい低クラスの
男相手では、勿体(もったい)ないのだそうだ。

わたし、もっとハイレベルの、私に相応しいステキな男を捜しますっ
て言うて、行ってしまいました。



ワシ、ちょっと驚いた。 A子が自分で、私は良いおんなだと言うた
のかと聞くと、そうですと黒ちゃん。

まあ、あれ位、超グラマ〜な肢体、持ってると、言うかも知れんな。
でもね、A子には精神的な欠点が有る。



ワシの見る所、あの子は恋人に向かない。 ましてや結婚相手として
問題が多い。

その辺を加味して自己評価して貰いたいな。 ブリブリの肉体だけ
では、この世の中、渡れない。



ワシがこう言うと黒ちゃんも同感した。 ボクA子を見てて、ひょっ
としたらこの女、

結婚出来ないんじゃないかと思ったりするんです。 あの子、億万
長者の一人娘でしょ。 文字通り、蝶よ花よの娘時代です。



その辺が付き合ってて、男として困るんですよ。 世の中全体を
見下(みくだし)てる様に感じますしね。

彼女と結婚する男は、大変だと思いますよ。



と言いながらだ。 黒ちゃんA子に未練たらたらなのだ。 ワシ
言うたった。

テメーは、てな事言いつつも、A子ともう一度、肉体関係したいの
じゃ無いのか?

あの子の心は、横に置いといて ・ ・ ・



黒ちゃん、にんまりと、意味有り気に笑いを浮かべた。



   *       *       *



或る同級生が、ワシに言うた。 A子はね、これから毎年、一億づつ
死ぬまで使ったとしても、

使い切れない金が、まだたんまりの、そんな金持ちの一人娘だと。



あれで、もうちょっと夫に尽くそう、てな気持ちを持って呉れたら、
それこそ絶品女に成るんだがなあと嘆息しつつ、

思って見るのである。



   *       *       *



ワシ、黒ちゃんに言うたった。 そこだよチャンスは。 A子が
そんな女なら、君が救うのだ。

君なら恋愛感情無しで A子とセックス出来る。 ワシねえ黒ちゃん
と話してると、君の腹の底が透けて見える。



今からでも遅くない、A子に連絡して、大人の付き合いを始めたら
どうか。

今、A子が、最も必要としてるのは、君みたい男の、オチンチンかも
知れぬのだぞ。



とワシは言うたのだが、その後、どう推移したかは知らぬ。 知ろう
とも思わぬ。

どう推移しようと、A子は38才に成り、黒ちゃんも四十路を越え
ただけが事実なんである。

その後の報告でも有れば、加筆す。



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A子の良い所。 大変な頑張り屋さん。 大学時代の実習では彼女の
ガンバリズムに、ワシ、感心した。

卒後、大学の研修所に進んだ彼女、そこでも頑張り屋さん。 なか
なかの実績なんであるが、



男所帯の研修所なのに。 しかもそいつら、良い彼女は居ないかと、
ウの目鷹の目の年齢なのに。

女の子はパラパラだから、こりゃもう奪い合いの筈なのに、A子
男日照り。 その辺がA子の問題なのだ。



大学時代のA子の思い出をひとつすると、あれは最終学年だった。
我らのひとつ下の学年に、元宝塚のマドンナが居ってナ。

入学時に新聞で紹介された程の玉なんだが、A子と彼女、仲良しだ
から、ある時、A子のノートをマドンナが借りたらしい。



返そうとして講義室を覗いてみると、A子が居らぬ。 直ぐ前にワシ
が居たから、久治良さん、A子さんのノート、預かってて頂戴。

言うてワシに、そのノートの一時保管を頼んだわけだ。 しばらく
するとA子が戻って来た。



どうやら廊下でマドンナと会ったらしく、ワシの所へ真っ直ぐに
来た。 そして何を言ったかと言うと、

ノート返せと、あたかもワシが横領でもしたかの如き口調で言う
のだ。 ワシが悪意を持ち、A子のノートを隠してるかの如き、



咎(とが)める語感だった。 ワシいささか呆れつつ、この子、
この辺の感覚で、彼氏が出来んのだなと、

思わざるを得なかった。



   *       *       *



宝塚が預かって呉れ言うから預かってただけでしょ。 それを何じゃ
い、その言い草はと言うてやろうとして止めた。

こんな女と喧嘩しても始まら無い。 あほらしくて、どんな常識を
した女なのかと腹で思った。

これでは彼氏なんぞ、出来るわけ無し。



だから黒ちゃんみたい男でないと、A子は駄目なのだ。 A子を救え
るのは君だけだと、ワシは言うたのだ。

その後、如何が成りましたでしょうか。 A子、もう四十歳である。
もう誰が何を言おうと青春では無い。



あの無限と思えた若さの奔出も、過去である。 ああ青春を、真に
青春するのは難しい。

ワシはついでに我が明海大歯学部 29期の、A子的おんなの例を、
もう二人ばかり、書かんぞと思う。



   *       *       *



忘れてた。 このA子、入学直後だ。 黒ちゃんと付き合い始めた
その頃だ。 A子、少々おでぶさん。 ケツ大き過ぎ。

あれは村松君だったかな。 A子のデケツを茶化しては、A子と
もみ合ってた。



黒ちゃんと馴れ初めの頃、A子、美しく成ろうとした。 ああその
努力たるや、見てて涙が出た。

女の子、美しく成ろうとして、あれ程の努力をするのだと感じ入って
しまった。 昼飯( ひるめし )抜きなど序の口で、



歯列の矯正、贅肉( ぜいにく )対策。 半年後の彼女。 努力の
効果抜群。

もともとグラマーな体型だったにしてもだ。 おおッと、声が出る
位の、怪し気な曲線美の女とは成った。



ワシ、変身後の彼女を、マタハリ的肢体美と形容したんだが、同級の
連中、理解せんのだナ。 学が無いから。

それは兎に角、廊下で離れた地点からA子を眺めると、思わず、むし
ゃぶり付きたくなるよな、超グラマラスな姿とでも書く。



A子、あんな超億万長者の娘で無ければ、絶対に、もっと違う人生
だったろ。

金が沢山有るのも考え物だ。 我らの如き、全然無いのも、こりゃ
困るけど、

とかくこの世は、ちょう度良いように行かない。



有る所には有り過ぎて、無い所には無さ過ぎる。 誠に誠に、
金と女は偏在するらし。

かてて加(くわ)えて、日本の金持ちの育児下手には嘆息す。
金持ち三代続かずは、日本だけの言いよ。



   *       *       *



< B子は結婚適齢期を逸しておる。>



B子が美人かどうかの議論、一時流行した。 その端緒、明海大歯の
美空ひばり、丸金島田こと、口外の島田淳教授であった。

講義の途中、急にだんまりして、何を言い出すのかと思いきや、感に
堪えた調子にて、



B子君は美人だねと言いやがったのよ。 講義室、シンとした。
続けて、でも顔が少し長過ぎるというと、

大講義室、ダハハハッと声出して笑った男(お)の子が、三名ばかり
居った。



当のB子を、いかがやと見れば、普段と変わらぬ、爬虫類的、シラ〜
ッとした無表情。

ワシかってこの点で、B子に注意した事、有った。



君のね、そのシラ〜ッとした表情、何とか成らんか。 君は物凄い
男を物にして見せると、顔に書いて生きとるが、

そんな物凄い男、君のそのシラ〜ッとした表情、見たら、一瞬で離れ
てしまう。



君と言う女には、やたら滅多ら愛想良き顔と、今みたい爬虫類的
シラ〜ッとした顔の二種類が有る。

少なくとも結婚にゴールするまでは、そのシラ〜ッの顔、引っ込めて
みないか。



君は相手に依り、極端に違う二種類の表情を持つ。 それは物凄い男
の獲得には、マイナスと思うがねええ。

こう言うとB子、鉄面皮の如き、完全に表情の無い顔でワシを見て、
何も反応しなかった。



シラ〜ッの時のB子の表情は、日々野努力先生なんかに対した時の顔
と比べれば、別人と思う。

その位、完全に別種の女に成るのである。 こんなのも如何かと
思う。



   *       *       *



もち論B子には、あらゆる教訓、無効である。 ワシ、白々とした
視線を浴(あ)びただけでした。

五年次の入れ歯の実習時間に、こんな事、有りました。 休憩時間、
実習室の片隅だ。



A君とB子が、やけに親しげな会話。 顔の距離、近過ぎやしないか。
実習の後、ワシ、A君に聞いた。

おいッおまはん、B子と出来とるんか? するとA君、その質問を
待ってましたと言わんばかりに、こう話すのだった。




そこなんですよ久治良さん、聞いて下さい。 ボクねえ、B子さん
の事、好きに成っても良いかなと思いつつ、

どうしても最後の一歩が踏み出せないんです。




恋人に成れば当然セックスでしょ。 セックスすれば女はアへッと
仰反(のけぞり)ますよ。

その時、男の目は、女の顎(あご)んとこに有るんです。 その位置
から女の顔を見上げる形です。



その時にです。 B子を、その位置から見上げた時、ボク、オチン
チンが萎(しぼん)で仕舞うんじゃないかと、心配するんです。

だってB子の鼻は、あんな意思的鼻でしょ。



ボクの鼻なんてチョコンとした、つつましい代物です。 B子の、
あの鼻を下から見上げたら、ボク、只事(ただごと)じゃ

済まない気がするんです。 オチンチンが萎(しぼん)でしまうと
思うんです。



ですから、どうしても君が好きだと言えないんです。 久治良さん、
ボクの気持ち、判って頂けますか?

分る分る、良く分るとワシは言うたった。 実際だ。 B子の鼻は
女の顔に有るべき鼻じゃねえんだ。

あれは偉大な男の鼻である。



あの鼻を見てると、B子が男に生まれてたら、大学いちの別品を、
カッ攫(さら)う様に恋人にして、

分院の十個も持ち、高級車を乗り回す人生をするだろうなと、嘆息
しちゃうのだナ。



   *       *       *



父親は東京都で、自動車関係の事業で成功して、御殿みたいな邸宅
(おすまい)で育てられ、

才気は有るし、高校時代はクキッと可愛いかったものだから、世の中
のどんな男も、わたしが、ちょっと仕掛けりゃ、

イチコロだと思っても無理は無い。



だけど彼女の神通力、二年次まででお仕舞い。 三年次の彼女、まだ
21歳なのに、顔のバランス、崩れ始めた。

この手の個性的な顔立ちの娘は、若い時、あんなにステキだったのに
加齢すると左程で無くなる(場合がある)。

オオドリヘップバーンみたい。



B子、残念ながら、その手のタイプかも知れぬ。 こんなタイプの
女の子は、それこそ十代で結婚すべきかも。

そのチャンスを看過した彼女、大学で、彼彼彼(かれかれかれ)と
捜し求める姿、或る意味で涙を誘う光景だったかも知れぬが。

ああ本当に、チャンスを逃がしてはいけない。




ワシの聞いた同級生(男)の評判はこうだ。 B子さんはねええ、
理想が高過ぎるんですよ。

僕らなんか鼻も引っ掛けて貰えない感じ。 あの子、物凄い男を
物にして見せるって、そんな感じで居ますけど、

どうなんですかねえ〜、久治良さん、どう見ます?



ワシ、ワハハッと笑いて、彼女は遅くとも二十歳(はたち)までなら
案外、成功したかも知れん。

だって入学した頃のB子、ワシが見ても、ドキッとしたからな。
キュートでイカシタ女の子だったからな。



だけどたちまち酸化して、結婚何年目、みたい顔に成っちまった。
あの子は、ああ言う体質なんよ。

だから間髪置かず、彼氏捕まえて、籍を入れちゃわないと駄目な
女の子だった、かも知れぬナ。



ここで酸化とは、老化である。 老化は個人差が大きい。 若年にて
老成する人。

何時まで立っても大人に成らぬ人。 こりゃ精神的だけど、肉体的
にも、老年まで酸化遅く、若々しい人は居る。

各自、自身の体質を心得うべし。



   *       *       *



女の子、この認識が不可欠だ。 我ら、一般論では人生を効果的に
生きられない。 各自の、

精神的肉体的推移(すいい)を心得て生きないと、ドジを踏む。



若い頃、結婚なんて当たり前の行事。 何の不安も無く遂行出来る。
なのに女の子、三十代も半ばを過ぎると、

肉体的に変化しちまって、二十代の初めみたい、何の躊躇も無く、
裸に成れん。 成る子も居るけどね。



個人差大きいから、一般論に成るけど、やっぱ三十代後半の女。
ケツが垂れてる。 全身の張りが消えてる。

ワシもスポーツ大好き人間だから、若い頃は肉体美が誇らしかった。
加齢して真っ先に劣化するもの、

ケツの美しさだ。



ケツが真っ先に老化するって事、若い人は心得て、その年齢ですべき
事を、その年齢で済ます事だ。

それが一番大切だ。 と分ってても出来ないのが、この娑婆の悩み
なんだけどね。



*************************************************************



< C子は向こうっ気が強過ぎる。>



三人目に語らんと欲っす C子。 相当の別品である。 特にスタイ
ル抜群。 こんなにもステキなおなごに、

何で彼氏が出来んのじゃと、首を傾(かし)げてしまう上玉だ。



彼氏の出来ない原因は単純。 傍で暮して見ると自然に体感される。
つまり彼女、自分の価値の高さに、自分で惚れ込んじゃってる。

そりゃ、あれ程スタイル良けりゃ、自慢したって無理は無い。
彼女の好きな出で立ちは、

身体にピッタシの、白いGパン。



これがまた、目茶苦茶似合ってナ。 スラッとしていながら、強調
したい部分、しっかり強調され、

とにかく全身的に、カッコ良い女なのだ。



んだけど彼氏が出来ない。 その理由は簡単だ。 付き合って話し
してると、彼女の身体から発散してる言葉が聞こえる。

こんなもステキな私が、あなたのものに成るのよ。 だから当然、
あたしを貴婦人の様に扱って呉れなきゃ、許さないわ。



あたしに最高の満足を与えなきゃ、駄目よ。 ああ本当に、兎にも
角にも、あたしを夢中にさせてよ。

そんな毎日をあたしに与えられない男なら、こっちで御免こうむるわ
と、そんな言葉が、彼女の身体から聞こえて来る。

加うるに、彼女の向っ気の強さには、たじろぐ。



   *       *       *



美人でスタイルの良いのは、認める。 んだけど、C子との生活、
彼にとりて、結構辛どいだろうなと、思うじゃないか。

その辺を何とかすれば、あんな上玉だ。 瞬時で売れると思うんだが
なああ ・ ・ ・



卒業が迫って来た頃だ。 彼氏のつくれない彼女のイライラ、傍目
(はため)にも知れた。

ある男の子いわく。 C子見てると、わたしみたいステキな女に、
何で誰も言い寄って来ないのかと、



怒ってる感じ、伝わって来るんですよ。 最近は危なくて傍にも
寄れません。

あれじゃ彼氏は出来っこ無いですよ。 ワシも同感だった。 本当、
危なくて傍に寄れなかった。



   *       *       *



C子、お父さん開業歯科医師。 妹が居ってナ。 C子が三年次頃に
サッサと結婚した。

C子、お父さんの期待からだろう、歯学部。 入学するや婚活始めた
けれど相手得られず、卒業した時は25歳だ。



妹は、サッサと彼氏見付けて、パッと結婚。 ワシ、C子を眺めなが
ら、果たしてこの子、

歯学部進学は正解だったのかと、考えてしまう。



結婚だけで言えば、歯学部進学は、明らかにマイナス。 妹と同じく
普通学部へ進学してれば、

あんな別品で、あのスタイルなんだから、どっかの若い歯科医師と
お見合いでもして、



婿(むこ)さんに取りゃ、それで良いのだ。
違うかな、お父さん。



   *       *       *



卒業名簿見てると、どっかの大学の歯学部で腕を磨いてる様なれど、
早くも36歳だぜ。

会ったら、どんな顔するだろう。 立派な歯科医師に成られましたね
とでも言えば良いのだろうか?



ワシは彼女の啖呵(たんか)今だに覚えとる。 いわく、素敵な彼を
見付けて見せますッ

ワシの言うた、C子ちゃん、そんなに神経、尖(とがら)してちゃ、
彼氏出来ないよに反発して言うたセリフだ。



日本少子化。 彼女は美人なんである。 スタイル文句無し。 こん
な上玉(じょうたま)を、

ムザムザと朽ち果てさしては、いかんよ日本男児。 とは言うものの
あんなに突っ掛かって来る性格では、

勧められんしなああ 〜



日本の金持ちは、育児が下手だ。 チョッと余裕が出来ると定見も
無く、蝶よ花よと育ててしまう。

男の子はタワケと成り、三代目で資産を食い潰し、女の子は、手に
負えぬ娘と育つ場合が多いと知れ。



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最終学年の臨床実習だった。 ワシ、何人もの若い、独身の先生に
聞かれた。 あの子に彼氏、居ますか?

上記の三人には、その手の質問、来なかった。 もし来れば、何と
答えるか。

ワシ、お止めになられた方が良ろしおますと、言うただろう。



上記の三人、グラマーだったり別品だったりするが、結婚に向かない
感じ。 残念な事に。

同期生に成って、六年間、一緒に暮してると、問わず語りに人柄が
知れて来る。



彼女らと結婚したら、苦労するだろなあ〜〜と、嘆息が出てしまう。
彼女たちはそれぞれに、

彼彼彼と、激しく求めてたけど、その前にすべき事は無かったのか
と申し上げる。



だけど人生は、そのチョッとが出来ないんだナ。 やっと理解した頃
は、老いぼれちまって手遅れだ。

しかし人生には、遅いと言う事は無いとも申す。 なれば彼が出来
ない原因を、考えて見るべきには、あらずやと、

ジイは、思って見るのであある。



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< 再説、臨床実習はお見合いか? >



臨床実習、明海大歯(は)では五年次、夏休み明けからの一年間で
ある。 大学によりては五年次をこれに当て、

六年次は国試に集中ってとこも有るらしいが、我が明海大歯、五年次
の夏休み明けからの一年間、これを実施す。



この臨床実習を、口の悪い先輩先生の言う、お見合い実習かどうかに
ついては、表本でも書いたが、

実際、確かにお見合いでも有るんで御座んす。 このワシに、三十
前後の、まだ結婚出来て無い先生が、聞くのです。



あの子、素敵な子ですねえ。 当然彼氏、居ますよね。 答うるに
ワシ、まず、居る居ると、冷や水を浴(あび)せてから入る。

これは名誉だから名前を明かそう。 三回も聞かれたチャンピオン、
ニッキーこと、小島にしき君は、富山県の産だ。



彼女、最初の頃の愛称はそのまま、にしきだった。 やがて誰言うと
もなく ニッキーと成った。

そのニッキーが、問い合わせ、一番の成績だった。



   *       *      *



ワシいわく、彼氏は居ませんが、彼女、難関ですよ。 えっ、何が
難関なんですか?

彼女、女の子二人の長女だ。 彼女のお父さんが難関なんですよ。
会った事無いんで、正確には言えませんが、



どうやら彼女の場合、彼女のOKだけでは駄目らしい。 お父様の
OKを取らないと、ゴールイン出来ないらしい。

だから彼女を物にしたいなら、富山県の実家へ行って、お父様に直接
彼女を欲しいと、談判すべきかも。



彼女、お父さんの意思が余りに強過ぎて、大学派遣の海外歯学部視察
旅行も応募出来ず。

大人しく勉強一途(いちず)の大学生活。 口を開けば、ウチのお父
さん、何時まで立っても乳離れが出来ない。



わたし、お父さんの言う人と結婚しなきゃ殺されかねない感じだわ。
娘はお父さんの玩具(おもちゃ)じゃ無いのよ。

入学時から、ため息混じりに言うとりましたな。



   *       *       *



ニッキーの感じ、ちょっとした大陸的気分。 親分肌の所も有って、
人気抜群なんす。

しかるに、父親があんななんで、彼氏作れず。 つまらんつまらん
と言いつつ過ごした六年間ってえのが、

彼女の青春時代でやんす。



これが彼女の、偽(いつわら)ざる状態で御座ンス。 お役に立ち
ましたでしょうかと、

聞かれる度に、ワシ、答える事にしてた。



   *       *       *



あれから十年だ。 彼女どうしてますでしょ。 彼女の叔父さんに
当たる方、歯科医師なれど、子が居ない。

で、その叔父さん、ニッキーの父親に、あんたのとこ、女の子二人
だから、ひとり、呉れないかと掛け合ったらし。



よって歯学部の学費は叔父さんが持った。 ニッキーが一人前に
成ったなら、わしの歯科医院へ来て、

後を継ぐとの条件にて、彼女、明海大歯学部へ来たのだ。 卒後、
国立新潟大歯学部の歯周病学科にて修行。



現在は叔父さんの歯科医院にて約束通り、臨床しとる。 叔父さん、
ニッキーが六年次に、

自分の歯科医院を全面改装。 彼女の一日も早い到来を待ってる形。
余っぽど嬉しかったと見える。



ニッキーには、そんな具合に、好かれる所が有る。 おそらく患者
さん達からも、信頼されてるだろ。

ワシ、大学の臨床実習の中で、彼女の事、先輩歯科医師から三回も
聞かれた。 彼女は持てたナ。



   *       *       *



ニッキー、臨床が得意。 忘れもせん、クラブリはA太郎センの支台
歯の形成実習だった。 A太郎セン、一本の形成歯を選び出し、

目の高さにかざして見やりながら、これ誰の作品? 上手いなあ。
ボク才能を感じちゃう。



この支台歯、まだまだ修行しなきゃ駄目だけど、将来に期待を抱かせ
る作品だ。

何となくね、良い物見せてもらったと言う気分にさせる作品なんだ。



その時だ、ひとりの学生、それはニッキーの作品ですと発言。
A太郎セン、ニッキーとは誰かと探す目付き。

前に居たニッキー、右手をちょっと挙げて知らせた。 A太郎セン、
おお君の作品かあ。 ま、がんばってね。

将来を楽しみにしてるよ。



それ聞いたニッキーの頬(ほほ)、ポッと赤らんだのが今も目に
残る。



その日の支台歯形成実習、一番はノムさんだった。 二番目がこの
ワシ、醜(みにく)いオッサンだ。

ニッキーは三番目だったけど、あれから十年後の今日(こんにち)、
ニッキーが、間違い無く、一番でしょ。



   *       *       *



彼女、富山県は高岡だ。 ワシの言うた事、本当かどうか確かめたい
向きは、一度、彼女の歯科医院を覗(のぞ)いて見よ。

合点されるであらう。



ニッキー、必ずしも美人にあらず。 スタイル、C子と比較すれば
ゴミに近い。 なのに先輩先生から三度も聞かれた。

女は気立てかも知れぬナ。 男が引かれるのは結局、気持ちだよ。
上記ABC子よ、一度、我が身を考え直して見よ。

無駄では無いと思うよ。



   *       *       *



二番目に多く聞かれた子は誰かと言うと、愛称、清(きよ)っぺ。
男の子みたいな感じの小さい女の子なれど、

結構な美人だ。 いや、我が29期の花かも知れぬ。



大和なでしこ的、野に咲くすみれ的な美人。 彼女も結構、人気
有ったなあ。

んだけど彼女、意識して彼氏作らなかった。 これ原因が有ってナ。
親友の ウ〜子ちゃん、( 本当に )或る先輩学生と、

死ぬ程の恋愛をした。 三年目、



彼の背信行為に夢破れ、絶望に近い ウ〜子ちゃんの嘆き。 それを
眞近(まじか)に見た清っぺ、ワシに言うたよ。

わたし結婚なんかしません。 男なんて信用出来ません。 わたし、
絶対に結婚しませんッ




大学時代に、清っぺ、こんな経験したので、先輩先生から、あの子は
どうなんですかと聞かれても、ワシ、答えようが無かった。

所がである。 先般、彼女、お名前がお変わり遊(あそば)された。
絶対にしないと言うとった結婚を、したのである。



   *        *       *



ある同級生いわく、やっぱ彼女、美人だからですよ。 あれだけの
美人だと、男は放って置けないんですよ。

性格素直(すなお)だし、尽くす方だし。 良いんじゃ無いんですか。
彼女、上手くやると思いますよ。



ワシ、かも知れぬなと言うて置いたが、何となく独身のままで居て
欲しかった気も残る。

さてこの項は、以上である。 何故かは知らねども、
コン畜生メッ

と言うて終わる。

                ( 次のページへ続く )









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