* 裏本 五十歳、歯学部へ行く。( 体験記・医療系 ) * * *   < kujila-books ホームへ帰る >

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 人生に免疫力無き方、読む事なりまッせん

第 1 章 * 4 / 5
我が29期の卒後十年目
< 鈴木史香先生は大事業家か >



我ら29期、独立開業は多けれど、
歯科事業会社の設立は、
鈴木史香先生ただひとりである。

あの史香君が社長だと?
聞いた時、思わず言うてしまったよ。



*     *     *




< 鈴木史香センセは、大事業家か >



29期、卒後十年の断トツ成功者は異論無く、この鈴木君である。
愛称フミカ。 フミカは勿論、史香だ。

そうか十年目。 あのフミカ君がトップを走るのかと、感慨、只な
らぬものが有る。



鈴木史香先生、医療法人・社団陵栄会主催。 この法人は茨城県から
山形県まで、広範囲に訪問診療を実施しとる。

ITにて検索すれば、範囲の広大さ、了解出来る。 歯科医師の
大募集をしとるから、

我と思わん向きは応募されたし。 スタッフの募集も有る。



   *       *       *



鈴木君、大学時代からのイメージ有りて、基礎研究の人。 試験管を
振っとる姿が良く似合った。

基礎研究者的な見てくれとでも言おうか。 二年次だったかに、その
辺を見込まれて、薬理学、



坂上宏教授に声掛けられて、学生時代から基礎研究の世界。 論文
まで出しとる。

だけど本人に言わせると、私、本当は外科的な世界で仕事がしたい。
皆は、スズキは基礎だ基礎だと言うけど、



あたしは実は基礎系じゃ無いのよ。 なのに、みんな、スズキは
基礎だ基礎だと言うので困ってるとの事。

ワシ、これを耳にせしは、二年次の解剖実習の時だった。 だけど、
君のしてる事、見てると、

如何にも基礎系へ進みそうな、そんな感じ、するぜと言うといた。



   *       *       *



薬理学・坂上宏教授の、やや強引なる勧誘にて、スズキ君卒後、薬理
学の大学院へ。

ああやっぱしと我らは見てたのだ。



大学院中も臨床の修行は続け、論文出して博士号を取って後に、世の
中を見る為だろうか、

あのデンタルサポート社へ、歯科医師として勤務した。 そこで訪問
診療の実体験。



その経験が彼女を突き動かしたに違い無い。 数年後、独立して
冒頭の医療法人社団・陵栄会を設立した。

三十代の初めだぜ。 事業を起こす人はたいてい、その辺の年齢で
創業す。



現在彼女、四十代に差し掛かりつつ有るが、将来が楽しみだ。
皆に嘱望されとる。



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大学時代の鈴木史香君、同級生から基礎系向きと思われただけありて
とにかく文章題での回答に優(すぐれ)とった。

一番印象に残るは五年次だったかな、小児歯科の 渡辺茂教授だ。



表本(おもてほん)でも書いたが、学生から見て、最も優秀なる授業
の講座は材料学なれど、

渡辺教授の小児歯科、これに次ぐランクに位置す。



課目が一巡したとき渡辺教授、黒板に文章題をひとつ、書かれた。
いわく、下顎右側(うそく)五番に、以下の如き症状が診られた。

さて諸君ら、この症状に対し、如何なる疾患の可能性を想像するや
を問う、出題であった。



教授、大講義室の階段を歩みつつ、学生の中に目ぼしい解答を見付け
るや立ち止まり、それを読み上げた。

こうして二三の学生の解答を紹介した後にて、鈴木君のプリントを
取り上げ、読み始めた。



内容は記憶せぬが、これが仲々の秀れものでナ。 こんな疾患が推量
される。 こんな疾患の可能性も有ると、

いわば満点解答だ。 学生から拍手が起った位だから、その優秀さ、
推して知るべし。



渡辺教授、本問の解答は鈴木君の回答に尽きるな、など独り言され
つつ傍に来られたから、ワシ、言うたった。

やっぱ鈴木君、皆から基礎系と目される筈ですなと。



渡辺茂教授、そうだね、アハハッと楽しそうに声を出されて、この
授業は終わったのである。

解答の文章に拍手が起こったのだ。 その秀逸さたるや推して
知るべしだ。



   *       *       *



鈴木君、実習大好き。 臨床研修なんか有ると、列の真っ先は、
決まって鈴木君。

赤ら顔に団子ッ鼻なれど、元気一杯。 あの意欲的な姿勢で、そうか
医療法人を創業したのか。



あれこそ明白に、博士号取得後に勤務した、訪問診療のデンタルサ
ポートの経験だろ。

歯科医師の世界も工夫次第で、色んなバリエーション、可能だ。
それを鈴木君、体現したように見える。



いずれにしても我ら、彼女の事業家的前途の豊穣なるを祈る。
ただし結婚運は後退しそうだ。

いや、その中で、女としての悦びも探索するか。 学生時代の彼女
の前向きに、ひた向きな生き方を思う時、会社の創業も、



やりかねないかな ・ ・ ・ とも思うのである。 とにかく
我ら、鈴木史香先生の前途を祝す。

幸い有れと申したい。











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