* 裏本 五十歳、歯学部へ行く。( 体験記・医療系 ) * * *   < kujila-books ホームへ帰る >

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 人生に免疫力無き方、読む事なりまッせん

第 2 章 * 3 / 3
明海大歯学部エンドの不正力学
< エンドは良いか住み良いか? >



エンドの研究室は愉快な場所だった。
エンドちゅうのは患者さんから見れば、
歯の神経、抜く処。

だもんで、する事言うたら、
ちまちまと、せせこまし。
これエンドの運命にて致し方無し。
よって口外(口腔外科)の先生なんぞ、
この辺を称して、

わしゃあ〜あんなセコイ作業、大嫌いと、
公言なさる方、結構、御座る。

確かにエンドはせこい。
ファイルにてシコシコ、
根管(こんかん)拡大なんかしてますと、
精神状態が変に成る、場合が有る。

だからこそ研究室では羽目をはずすのだ。



*     *     *




<明海大学歯学部歯内療法学講座は良いか住み良いか?>



我ら29期の一年先輩には、四名の先生が御座った。 鉢ノ木勝則君
の犬を演じられた27期、松崎某センセは、さて置くとして、

卒業成績二番の優れ者28期、佐藤雅先生。 佐藤先生はエンドで
大学院。 大学院には、もひとり居られて、

杉祐紀先生である。



最後の中西祐理先生は専攻生だった。 前出の松崎某センセも、専
攻生である。

松崎センセみたいに犬など演じられると、名前を書く事さえ出来ぬ。
誠にけしからんとも、哀(あは)れとも申すべし。



犬に成ってはいかん。



   *       *       *



ワシの卒業二年目だった。 勤務先の先生、久治良センセはエンド
出身だから、エンドの仕事、

全〜部、センセにして貰うと言うて、エンドの患者、全部ワシに回し
やがった。



ある日なんざ朝から晩まで、エンドエンドエンドエンドだった。
これしてると、ファイル摘(つま)む指先が痛く成る。

痛くて痛くて、箸も鉛筆も持てなく成る。



朝から晩までシャカシャカエンドしてると、やがて、オツムも可笑
しく成る。

ワシなんざ、もともと可笑しいから、エンドしてると、ホント正直
発狂しそうに成った。



作業中に(危うく)大声で叫び出しそうに成る。 こりゃいかん
てんで、日曜日だけ、

大学時代に行ってた犬の繁殖屋でアルバイト。



大好きなワンちゃんに囲まれて、ようやく息を付いたものだ。
だけどそこ、時給が八百円。

月に四回行って、二万二千円。 最初の内は専門書、買ったりして
悦に入ってたが、



二万二千円は歯科医師のチェアーワーク、三時間だ。 半年で馬鹿
馬鹿しく成って止めた。

犬屋さんのアルバイトも結構な重労働。 気晴らしの為とは言え、
ヘトヘトに成った。



   *       *       *



先輩先生に聞いてみると、アルバイトは、どっかの開業歯科医院へ
勤務医だ。

それが正解ですよ。 ワシみたい、エンドばかりやらされて頭が変に
成り掛り、逃避的に犬屋さんへ行った話、余り聞かぬ。



   *       *       *



大学の一年先輩では 中西先生が、一等手が早い。 仕事の手です
から誤解ありません様に。

先生の仕事は見てて参考だった。 見て覚える、ちゅうのは、あんな
感じですな。 もちろん、真っ先に学ばねばならぬ先生は、

講師の小林健二先生ではある。



だけど敢えて言わして頂くならば、小林先生のエンドの手法、開業
歯科医院では使えない。

丁寧(ていねい)過ぎる。 しかし患者で、大学行ってエンドを
して貰うなれば、ワシ、紹介状書いたげから、



小林健二先生に、エンド、して貰え。 先生のエンドが(明海大)の
最良だから。 

小林先生は明海大歯ではエンドの名人なれど、一日の売り上げ、
一万円に届かぬのよ。 開業医だったら夜逃げレベル。



エンドは全体がそんな調子なんで、患者で明海大へ御座る方、一度
旧館の歯内療法の診療室を覗いて見られたし。

洗うが如き貧乏所帯と直ぐに知れる。 売り上げが低いから貧乏だ。
貧乏だから肩身が狭い。



だからエンドの人間は、廊下を行く時もスミッ子を、すみませんすみ
ません言うて、

コソッと歩くんよ。 我らエンドでの第一番の教えは、付属病院内
での歩き方だったものさ。

デマなれど。



   *       *       *



大学病院だとエンドする時、ゴムカバーを口に付けるだろ。 我が
明海大歯のエンドでは、そのゴムカバー、

衛生士の女の子が一回使った奴を捨てないで、又使う。 消毒液に
漬けといて再利用するのだ。



こんな貧乏所帯の苦労話、まだまだ有るが、外聞が悪いので伏せる。
エンドと反対に、付属病院いちの豪勢な診療室と来りゃあ、

それは申基赴ウ授の歯周病学講座だ。 椅子が違う。 最新の高級品
だっせ。



エンドの椅子と比べて見よ。 天と地だ。 あっちは丸金(まる
きん)。 こっちは(エンドは)丸貧(まるび)だ。

歯周病学講座が、何であんなにキンキンなのかと言うと説明の必要
も無い。



それはインプラントさ。 歯周病学講座は申基赴ウ授が既に、インプ
の名手だ。

スタッフの先生方も、インプが打てなきゃ職員に採用もされない厳
(きびしき)講座なのさ。



明海大歯では、島金( 島田淳教授 )の口腔外科第一と、申基赴ウ授
の歯周病科が、インプラントの双璧だ。

それは同時に、付属病院の儲け頭をも意味す。



   *       *       *



その点、我がエンドなんざあ、昔変わらぬ、歯の神経抜く作業で、
保険点数、最少の講座。

だから歯内療法学講座には教授が居なくても良いのだ。 いや
居ない方が良いのだ。

なぞと言わるる。



我が明海大のエンド。 奇怪なる力学にて、教授が居ない。 だけ
れども、そう言う考え方からすると、

ひょっとして大学は、それを奇貨(きか)として、教授ひとり分の
給与、儲かったと、ほくそ笑(えん)どるのかも知れぬ。



将来は、保存系の三講座。 歯周病学と保存修復学と歯内療法学講座
は統合して、教授一人だそうだから、

歪(ゆが)んだ力学は、大歓迎かも知れぬ。



   *       *       *



こんな風にエンドの研究室。 歯科学の傍系だから、暢気(のんき)
な事は暢気だった。

ノホホンとして居れる。 まともに研究してる先生、居ないもんね。
提出論文数は最下位。

論文が出ても症例報告のレベル。



エンドなんて歯の神経を抜くだけの作業。 慣れるまでは辛どいが、
慣れちまえば、ファイルでシャカシャカの、

陽気な床屋さんみたい気分。 ホンマ、アホでも出来るエンドかなっ
ちゅう成句まで有る。

穿れ(ほじくれ)ば、どんな仕事も底が無いと言うが、



エンドだって、ひとつ凝って見ると、これ又、何処までも深いが、
日本人なら凝りに凝って、

エンドの妙技に嵌(はま)りそうだけど、その割に、はまらない。
それは何故か、



エンドの保険点数が安いからさ。 だから開業歯科医院でエンドに
凝ってたりすると、嫌味言われる。

サッと流すのが評判の良い歯科医師ってえ事だから、日本のエンド、
東南アジアで滅法、評判が悪い。



特にタイランドの歯科医師は、日本人歯科医師のエンドは、こりゃ
何ですかと思うらし。

ややこし事は言わぬから、歯の神経抜く人は近所の大学病院へ行く
か、遊びを兼ねてタイへ行くか、



はたまた自費のエンドを、されるべし。 日本のエンドは、その位
雑な作業が多いのだ。

ただし近所の歯科医院へ行って、エンドの自費しても駄目だぜ。



たいていの歯科医師、保険のシャカシャカしか、した事無いから、
エンド一本に、二十万円出す言うても、

そう言う丁寧な治療法が出来ない。 これ御用心を。 数は少ない
が、エンドの自費を売り物にしとるセンセも居られるから、



そんな歯科医院へ行くと、歯の神経一本に、二十万三十万だけど、
タイくんだりへ行く費用より安い。

だから一番良いのは、近所の大学歯科病院の、エンドへ行く事さ。
たとえ新卒の新米歯科医師の練習台にされようとも、



近所の歯科医院よりましだと、ワシは断言す。



***************************************************************



さて次は、エンドの暗い面を言う。



< (故)西川博文教授はワシに言うた。>



当時のエンド、助教授不在。 その代わり講師が三名だった。 古い
方から順に言うと。

小林健二先生、陣内他家男先生、高橋慶壮先生である。



高橋慶壮先生はその後、松本歯科大の教授して、一年後に奥羽大歯
学部歯周病学へ移られ、現在そこの教授である。

陣内他家男先生は独立して開業された。 よって明海大歯(は)の
エンドの講師は、小林健二先生おひとりに成られたのであるが、

中村裕子先生がその直後に助手から昇格され、二名に増えた。



   *       *       *



西川博文教授、ワシに言うのだ。 センセはA子先生を知っとるか?
そんな先生、知るわけが無い。

A子先生が、どうかしたのですか?



まあな、あのセンセはウチに居たのだよ。 何年かして故郷へ帰っ
てな。

お見合いだか恋愛だか知らぬが、結婚するっちゅうのだ。 ボクに
電話して来てな、



結婚の相手方の親が、先生の所へ影問い(かげどい)して来ても、
私と陣内先生の関係は、話さないで下さいっちゅうのだ。

ボク、大丈夫、大丈夫言うて安心させといたが、あの先生、そう
言う事、しとったのだよ。



と、ワシに言われた。



   *       *       *



西川博文教授が、なぜ、そんな話をしたかと言うのが、ここの文
である。

明海大歯(は)にてセクハラ教授と言えば、これはもう、新入生から
ベテラン先生まで口を揃えて、

エンドの、西川博文教授であると申す。



んだけんどもだ、ワシの実際見聞から言うて、その先入観は可笑
しい。 第一に西川教授、四十歳にして心臓病だ。

セクハラのファック行為なぞ、土台、出来やせん。



なにしろ教授の奥さん自体、教授の不能に見切りを付けて神戸へ
帰ってしまった。

西川博文教授いわく。 たまにゃ女の子の中に、心掛けの良いのが
居てナ、あそこのお毛(けけ)、触らせて呉れたりしたけど、

ボクのはそこまでだよ。



心臓が悪いのに本番なんぞ出来ないよ。 なのにセクハラ教授と言う
と全学的に、ボクの名が挙がる。

陣内先生なんぞ奥さんが居るのだ。 お子さんは女の子が二人だぞ。
なのに医局で、新卒のピチピチ娘を、大学ワイフにしとる。



家庭と大学と、奥さん二人の、けっこうな生活だ。 そんなのが
セクハラじゃ無くて、

ボクみたい、たまにお毛(けけ)触る程度が、何でセクハラ教授な
のだ。 おかしいじゃ無いか。

ボク断然、抗議したいと、ワシに言われた。



   *       *       *



そこから先の、A子先生の電話の話しが続いたのである。 あの狭い
エンドの医局でさえ、

そんな話は、幾つも聞けた。 たとえば大阪のB子センセ。



学生時代からの彼氏居て、週末の一戦は、もう五年を越えて居た。
ワシ、聞いたのである。

センセ、なぜ結婚しないのですか?



B子センセ、顔しかめ、わたしは結婚してって言ってるのよ。 なの
に彼ったら本気で聞かないの。

センセ、かなり悩んでた感じ。 結局次の年。 あきらめて大阪。
この話を西川教授にすると、



アハハハハッとお笑いになり、それじゃB子センセ、彼に遊ばれて
たなと言われ、又、笑われた。



   *       *       *



この陣内他家男先生については、ワシ、言いたい事が有る。 それ
は先生のフラップ手術だ。

我らはエンド(歯内療法学)である。 歯周病学では無い。 そんな
に毎週毎週、フラップ手術が必要な患者、

来るわけが無い。



なのに陣内先生、毎週毎週、フラップ手術をした。 それもエンド
の診療室では無く、

歯周病の診療室のチェアーを借りて、である。 ワシ、ある先生に
疑問を投げ掛けた。



その先生、フンと鼻を鳴らし、あんな手術、必要無いのさ。 もし
フラップ手術が必要な患者だとすると、

そんな歯周病の患者を、エンド(歯内療法)へ送った診断科の先生の
責任問題だよ。



歯周の患者を、エンドだろ。 何を診てたのかと、言えるからな。
まあ、あれは、フラップ手術をしたい、

陣内他家男先生の勇み足さ。 ぼくは患者を、年に数百名診てるが
フラップ手術の必要な症例なんて、

何年かに一例、有るか無しだぜ。



毎週毎週のフラップ手術なんて、ある意味、犯罪だ。
この意見に、ワシ、同感す。



***************************************************************



陣内他家男先生の、女癖(おんなぐせ)の悪さは、知る人ぞ知る。
奥さんは本学付属病院の衛生士だった。

つまりは職場結婚である。 旦那の女癖に苦しんだと見えて、かな
り長期間、陣内先生は自動車が使えなかった。



自動車を与えると陣内先生、女を乗せてホテルへ行く。 だけど車を
禁止したから言うて、旦那の不倫は防止出来ない。

西川教授の知る限りでは、新卒でエンドに来た女のセンセの、最低
三名は、陣内先生の餌食(えじき)にされたと、

おっしゃるが、



A子センセみたい電話掛けて来て、陣内センセとの関係を、相手方
の両親に、バラさないで下さいなどは別格として、

女房の他に三名もの、新卒のピチピチギャルを食い荒らすなんて、
明海大歯学部として、学部処刑の案件ではあまいか?



   *       *       *



こんな先生は、その罪深きオチンチンを、ちょん切ってしまいたいと
ワシ思うが、諸君らはどうか?

過去、この件にて有罪判決のセンセ居ない。 不合理と思わんか?



   *       *       *



西川博文教授の言う、明海大学歯学部、いけないセンセ、三羽烏
(がらす)をここにて列挙したいが、

止せ止せの声、余りにも大きいので、筆先、鈍(にぶっ)た。
上記エンドの陣内センセは書いたが、他は後日とす。



Cr-Br(クラブリ:金冠とかブリッジである)のあのセンセとか
口外のあのセンセとかは、

我が首を撫でつつ、罪深きオチンチンをジッと見るべし。



   *       *       *



いけない先生、御三名を見ると、いずれ劣らぬ人当たりの良さだ。
しかし三名は、男前と言い難い。

醜男(ぶおとこ)でも無いが、男前とは、お世辞にも言えぬ面だ。
やっぱ女たらしは、人当たりの良さが勝負かも知れぬ。



ワシみたい、据え膳まで主義に合わぬからと断るよな不粋な仁から
見ると、お灸のひとつも据えたくは成らぬか?

オチンチンにこそ据えてやりたい。 悲鳴を聞いてみたい。



***************************************************************



まさに適齢期の、若い男と女とが集合すれば、この手の問題の想起、
当然である。

明海大歯(は)では、歯学部長通達として、教授室へオニャン子が
来た場合、ドアを開放状態に、しとけってえのが有るが、



その手の通達の存在こそ、この種の行為の氾濫を、表徴しとるのだ。
そしてこれを問題に、せざるを得ぬのは、

若いおなごの肉体が、或る男のオチンチンに、独占的に偏在する
からだ。

竿一本に穴ひとつは、お天(てんと)様が憲法で決めた筈なのに、



その規則が守られてないからこそ、ワシが、ここに書くのだ。
この不均衡、無くなりそうもない。

いやむしろ、偏在は促進されつつある。 これが明海大歯(は)に
も有る、暗い面のひとつだ。



もっとも、持ててるセンセにすりゃ、明るい面かもね。 男と女の
ハレンチなんて、

要するに男のチンチンが、おなごのあそこへ入るだけの事である。
他事は無い。



と観念しつつも、ニャロメッと言いたく成るワシではありました。



この単純な事象に、かくまで大騒ぎするのも、我らのホルモンが
許さないからだ。

そう言えば、授業が始まるって言うのに階段で立ち話してたあいつ
ら、授業をサボってホテルへ行っちまったぜ。



陣内他家男先生ならずとも、新卒のおなごセンセを口説こうとして、
知恵を絞りつつ、

あっちでも根充、こっちでも根充ですがな。 ってえのがエンドの、
暗い暗い笑話でやんす。

ここで(世の)終しまいとします。



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エンドの話題はひとまず終えて、明海大歯学部、問題教授列伝へと
駒を進めやしょ。









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