*  自分史 製造業系 ( 五十歳までのワシ。 鉄工所三十二年間の想ひ出 )  *   < kujila-books ホームへ帰る >

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第 4 章  *  ワシの同級生賛歌

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<土本寛二君は医師に最適の人物である>





土本君とワシは、芦城中学校一年時の同級生である。
土本君、高校は園井健二君らと共に、金付(きんぷ:金沢大学付属高校)へ
進学。ワシは地元の小松高校へ進学。よって次に会ったのは土本君、
慶応の医学部を出て医師のライセンスを取得した年だった。四十年の前だ。

ワシ五十歳に何を思ったか 埼玉県坂戸市の明海大学歯学部。
そこの図書館の 医科学研究者名鑑を、何気無く 見てたのだ。
土本寛二君、北里研究病院の、しょ所長様だってよッ

ワシ魂消た。あの寛( かん )ちゃんが所長様だってえ
唖然となり、しばしの間、言葉を失った。
中一の時、ふざけて顔に墨を付けてやった、あの土本君が、
北里研究病院の所長様だってよッ

つらつら思うに、ワシの同級生では、この土本寛二君、
伝記を書かれる可能性の、最右翼かも知れぬ。
その節は、ワシの悪戯( いたずら )も是非是非、書いてく れ。
さすればワシの名が、土本君と共に末代まで残る。

本 <ゲーテとの対話> を書いたばかりに名を残す
エッカーマンとは成れるのだ。
蒼蝿(そうよう)騎尾(きび)に付して、何とやらだ。



*     *     *





< 土本寛二君の父親を、語る。>


ワシには土本君なんかより、彼の父親の印象の方が、ずう 〜 ッ と濃い。
お父さん、職業は不動産屋。

小松地区では屈指に成功の、不動産屋だった。 早い話し、久治良鉄工所
の土地、土本不動産の世話。 昭和四十年頃である。



だもんで、ワシの父と土本君の父親、それ以来の釣り仲間。 一体全体
ワシは、この二人を乗せて、何度、川まで運んだか?

数え切れない位だ。 おいッ、いるかッ  川まで運べッ
父の命令でライトバン、釣り道具と父を載せて、まずは土本君のお屋敷へ。



そうだ、土本君家( ち )は、お屋敷なのだ。 総檜( そうひのき )造り。
父ちゃん、他に道楽が無いもんだから、五年毎、

自宅をぶっ壊す。 そしてまた総檜作りの、ゴツイお屋敷を建てる。 白洲
次郎の父の、白洲文平みたいものだった。



行くと門の所に、結構な柴犬が御座ってな。 岐阜県の業者から、七十万で
買って来たそうな。

ひと目で只者で無い面構え。 実に精悍そうな柴犬だった。 世の中には
スゲ ェ 〜 奴が居るものだよ。 あの柴犬を、だよ。



盗んで行ったのだ。 良く盗めたと感心するよ。 とにかく そんな事あった。

ワシがライトバンを門の前に停めると、我が父、窓を開けて、おお 〜 いッ
と、大声を出す。




すると土本君の父、釣り道具を担いで、おおうッ  と、出て
来る。

そして安宅の河口の辺へ。 一体全体、ワシは彼らを、何回運んだ事か?
工場へ帰って仕事してるだろ。 夕方になると、



電話が無遠慮に掛かって来る。 おいッ、帰る。 車で迎えに来いッ
父ながら、この野郎と思いつつ、迎えに行く とだな。

ボラが五十匹ばかり、ビクには這入り切らんから、その辺に捨ててあった
ダンボール箱なんかに、突き刺すみたいに投げ込んである。



クーラーの無かった頃だ。 半分腐ってて、いやはや、臭いのなんのって。
折角釣ったのだ。 捨てるの惜しいから

兎に角、工場まで持って帰る。 帰り道。 後ろの座席では、釣りの話し
が、花盛り。



そりゃ愉快でしょうよ。 こんな大きなボラ、五十匹も釣れば、大漁で
すよ。

ワシ、内心、ニャロメと思いつつも、運転してたのだ。 これだけ奉仕し
て、我が父からも、土本君の父からも、

有難うの、ひと言も無かったのは、誠に遺憾であったので、あある。




お陰でワシのライトバン。 油臭いのは鉄工所。 魚屋でもあるまいに、
その上、魚の生臭さが強烈でね。

同乗の方、一回で逃げ出す。 そんなだから、車の下取りが安うてのおお。
あれにゃあ心底、参ったよ。 大損害だった。



  *       *       *



< 土本君は越境入学生だった。>


当時は学区制でね。 小松市の市街地を南北に二分して、北は小松城が
有ったから、丸の内中学校々下。

南半分は、小松駅と市の中心街の有る芦城( ろじょう )中学校々下で
ある。



ワシらの頃は、芦城中学校こそ、小松市の最良の中学校であると、市民
からは、見なされておった。

ワシも、そうかも知れぬと、中学時代は思ってた。 しかしだ。 小松
高校へ進学してみると、決してそうは言えぬと知った。



例えば、松高( 小松高校 )の同級生から二名、東大へ行った。 二名共
市街地郊外の、松陽( しょうよう )中学校出身である。

いわゆる三菱化学の満田君( 田上満君 )と、住金に居た 鳥崎公寛君
の二人である。



土本寛二君、本来なら、松陽中学なんである。 ワシ松高へ行って思う
に、果たして松陽中学から芦城中学への越境入学は、有効だったか?

いや、むしろ、松陽中学へ進学した方が、良かったのでは? と思う。
根性と言う点で、町中の中学校。 郊外の田舎の学校に負ける。



市街地の生徒は、野性味に乏( とぼ )しいのだ。 でも、まあ、土本
寛二君を知る者なら、その紳士的な優しさに、

この越境入学、必ずしもハズレでは無かったと、考えるかも知れぬ。



  *       *       *



越境入学が、もう一人居てね。 生徒会で一緒に働いた 山岸真知子君だ。
山岸は、当時の旧姓である。

彼女は市街地の北半分。 丸の内中学校区からの越境入学だった。 この
越境は、正解と言える。



同じ小松市の市街地なのに、芦城中学校区と、丸の内中学校区では、生徒
の人品( じんぽん )に、大差が有る。

丸の内中学校区の連中は、ガラが悪い。 確かに良く ない。 下品とは
言わぬまでも、粗暴な生徒が、芦城中学校下より、目立つ。



のちに書く所の、明星大学電気科教授をしとる、山口俊久君が、そのガラ
の良く ない中学校の出身であるが、

彼のガラは、良い方であった。 悪かったかな? 全員悪いわけじゃ無い。
一部に、そんなのが居たって話しだ。 文句、来るだろうが、

当時は、そう言われてたんだよ。 ワシの勝手な記述じゃ、無いぞ。




だから名簿で小松市出身と有っても、市街地と郊外。 郊外でも金沢寄り
と福井寄り。

同じ市街地でも、北と南。 人情と言うのか、気風と言うのか。 随分と
違うのである。



これは、そこに生まれて育った人間にしか言えない。 微妙なる差異だ。
同じ事を、諸君らの郷里でも言えるだろう。

小松市出身と言うても、一緒く たに、出来ないのだ。 一緒く たとは、
同じに扱えない意である。



  *       *       *



ここを書く 為に、中学時代の同窓会名簿を見るとだな。 山岸姓の女の子
が、二人居る。

生徒会で一緒に仕事したのが、どっちだったか、判らん。 しょうが無い
んで、二人にハガキを出したら、



間違ってる方から、わたしじゃ、ありませんッ  って、メールが
来た。 でも、お二人、いとこ同士なんだそうだ。

思わず、へえ 〜 ッ、知りませんでした。 言ってしもうたがな。
( 言って仕舞いましたよ。)



生徒会で一緒だった 山岸君。 こんなたとえは迷惑だと、文句言われそう
だが、たとえば雅子様みたい。

皇太子殿下妃に成られても、務( つと )まりそうな、そんな心根( ここ
ろね )の、ステキな方でした。



高校の同窓会の会報にも、短文。 何度か寄せられてますが、いかにも社会
の安定に寄与されとる気配の、漂って来る感じ致します。

ワシなどの、いかにも社会の安定を揺るがしとるのとは、反対のお方では
あります。 当時から、そんな感じの、しっかりした女の子でした。



  *       *       *



< 土本寛二君は、倦( う )まず弛( たゆ )まずの、コツコツ派である。>



中学一年時の同級生は、豪華だった。 お兄さんの後を追うて東大へ行った
園井健二君だろ。

会社四季報一番乗りの 曽田義則君だろ。 北里研究病院の所長様やっとる
土本寛二君が居て、剣道しに学校へ行く よな、ワシが居たんだから、

凄いじゃろが。



テストの一番、たいてい園井君。 女の子に出来るのが居て、その後、
土本君。 ワシ? もち論外。 剣道クラブが忙( いそが )しゅうて、

勉強なんか、しとれるかいッ  ( 出来ますかッてんだ



良い先生も多かったな。 五十年も前なのに、師の恩、有り難く 思わるる
んだから、如何に良い先生が多かったか、判るじゃろ。

数学のジャッカン( 中西先生 )、英語の坂下先生などなど、今、如何お
わしまするや?  ってとこだ。



ワシ、剣道クラブする為に学校へ行く 少年。 園井君や土本君は、
勉強一筋のタイプ。

だけど、彼ら、ガリ勉では無かった。 当時は塾も少ない。 空き地が至
る所にあって、子供たちの歓声で充満してた頃だ。



  *       *       *



周りがそんなだと、同じガリ勉でも、違って来る。 現今の、人間関係の
希薄な中での、ガリ勉の純粋培養は、良く ない。

そんなの、外見は良好な若者でも、心の中、病的な素地が篭( こも )る
から。 土本寛二君と接した方なら判るように、


何とも言えぬ人格の芳( かんば )しさ。 あれなんかも、横でワシらが
騒いでいた、お陰なんであるぞよ。

ボヤボヤしとると、墨、付けられたからな。 現に土本君、ワシに墨付け
られて、泣きべそ掻いとったがな ・ ・ ・  は、嘘だけど。

別に泣きは、せんだ( しなかった ) ・ ・ ・ と思うんだが?
泣いたかな?



とにかく だ。 当時は自然が多かった。 このワシも、土本君や園井君の
周囲を彩( いろど )る、自然だったかも知れん。

そう言う、長閑( のどか )さの残る時代だった。




< 土本寛二君が、白洲次郎と似る点とは、何か? >


この頃、白洲次郎が人気である。 N H K で、ドラマにも成った。 貴公子
扱いだ。

白洲次郎白洲次郎と、大変な騒ぎだが、ワシ、ヘソが曲がっとるんで、
ついつい天邪鬼をしたく 成る。



その最大は、次郎である。 次郎とは次男である。 野球の イチロー
( 一郎 )は次男だが、ありゃまた別だ。

白洲次郎の兄さんは、どんな生き方をしたか?  諸君ら、知っとるかね?
次郎の兄さんは、尚蔵と言う。



白洲次郎なんざ、中学生時代。 今の高校生だぜ。 授業が引けると、
校門の所に、宝塚の姉ちゃんが待ってたそうだ。

つまり、いけない生徒だったのである。 片や兄さんの尚蔵は、品行方正
の優等生。 お母さん尚蔵尚蔵と、真綿で包むようにして育てた。



次郎、不純異性交遊が祟( たた )り、イギリスへ島流し。 これ本人が、
自分で言うとる事よ。

イギリスでの生活、ロビンとの友情などなど、物語めいた生活は、伝記に
書いてある。

では次郎の後を追う様に渡英した、尚蔵兄さんは、何してた?




ロンドンの貧民に興味を抱き、同情などしてた後、神経を病みて部屋に
こもり、隠れ暮しの日々である。

日本へ連れ帰ったのだが、その後、目ぼしい活躍も無く、四十五歳で死ん
でいる。 どんな死に方をしたか? 何処にも書いてない。




ワシの推測なれど、白洲次郎の兄さん。 母親の過保護に潰されたのでは
ないかと、思う。

実はワシも、母なる人の過干渉に、危うく 殺され掛かった人間である。
白洲尚蔵の気分、蛇の道はヘビで、判る気がするのだ。



  *       *       *



それと土本寛二君と、何の関係かと言うと、だな。 土本君の母親、ワシ
の母に、授業参観の折に言うたのだ。

わたし、長男が生まれた時、この子を立派に育てて見せると決意しました。
それで、出来る限りの事、したんですが、


それが良く 無かったみたいです。 子供が、おかしく 成っちゃいました。

それで寛二が生まれても余り干渉せず、育つままにして置いたんです。
そしたら、普通の子に育って呉れて、やれやれと胸をなで下ろしたんです。




ここで断わっとくが、土本寛二君のお兄さん、白洲尚蔵ほど酷く は無い。
話してる限り、極々( ごく ごく )普通の方である。

だけど責任が生じたりする場面では、なるほどお母さんっ子だなと思う。
寛二君とは印象が、まるで違う。



さて土本君のお父さん。 先に書いた如く、成功した不動産屋であるから
資産、物凄く、地元北国銀行の、個人の株主では上位である。

お兄さんその縁で、北国銀行へ就職した。 北國銀行なら、ワシの姉も
行員だった関係で、知り合いが多い。

聞いてみたが土本君のお兄さんを、誰も知らなかった。



  *       *       *



土本君のお母さんは、五十を過ぎた辺( あた )りに病を得て、死去さ
れた。

土本君、身体には気を付けよ。 もっともこりゃ、彼が医者だから、釈迦に
説法だがね。



これで土本寛二君と白洲次郎との類似点、ご理解頂けたと思う。 見てると
どうも、母親が、この子( 長男 )を良くしようなんて ハッスルすると、

碌( ろく )な事に成らんようだ。 ほとんど、人殺しに近い結果に終わっ
て仕舞う。



鈴木イチロー、宮里藍、石川遼を見て判るように、幼児英才教育は、父親が
すると成功する ・ ・ ・  場合がある。

母親の英才教育は、成功例が少ない。 むしろ害と成る。 この差は父と母
の、役割の違いから来る。



お母さんは、お母さんである。 お母さんが先生に成ろうとすると、子供は
迷惑する。

お母さんと教師は、両立しない。 お母さんが先生に成ると、幼児は、お母
さんが居なく なるのだ。



お母さんの最大の機能は、幼児の善悪を、善悪の判断、一切無しに、際限
無く 受納し、包容する所に有る。

善悪なんてもの、世の中の人が言って下さるからね。 心配ご無用なの。




人間なんてね、自分の目に引っ掛かってる梁( はり )は見えないく せに、
他人様の傷( きず )なら、どんなに小さいものも、全部言って下さる。

それはもう、天才的な洞察力です。 そんなに賢いなら、自分の欠点を
見たらどうかと、言いたく なる位に、完璧に批判して呉れます。



お母さんは、お母さんに成りなさい。 小賢( こざか )しく 息子を教訓
なんか、しなすんな。 ちゅう事です。

白洲次郎のお母さん、長男の尚蔵を、一生懸命可愛がり、殺しちゃったみ
たいです。



  *       *       *



現今の少子化で国民の半分近く、長男長女のご時勢。 下手すると国民の
半分、母親の下手な育児の犠牲者って事かもよ。

そんな国民で繁栄した国なんて、無いぞ。 特に長男の育児が難しい。
失敗例が多い。

お母さん、長男を、いじるなッ



これから出産の方、子供に期待なんか、するじゃ無い。 期待したいなら、
自分にしなさいッ

自分の成長に、励み勤めよ。 それが最良の育児です。



  *       *       *



横道に逸( そ )れた。 誰であれ 土本寛二君の傍に居ると、その人柄
の馥郁( ふく いく )とした香りに、親愛の情を生ず。

ワシら、中一の同級生。 あの時点で、土本君には既にそれが有った。
土本君が医師に最適と言う根拠である。

北里研究病院だか何だか、知らないが、所長に押し上げられたのも、その
辺からだと察す。 これ何人であれ、異議無しだと思う。



慶応の医学部へ行った位だから、優秀は当然ながら、ワシは彼の根気有る
勉学を、この目で見て来たので、

慶応の医学部は、努力の結果だと考えてる。 土本君は努力家である。




< いよいよ土本君の顔に、墨を塗る瞬間が来たッ


中一の習字の時間だった。 土本君、運の悪い事に、ワシの斜め前に座っ
てた。

ワシ、フト見ると土本君だ。 熱心に字を書いておる。 たちまち悪戯
( いたずら )思い付いた。



筆に墨をたっぷりだ。 そいつを彼の顔の、すぐ横へセットする。 それ
から、おいッ 土本君と、不意に呼ぶ。

土本君、当然、何だい? と首を捻( ねじ )って振り返る。 するとそこ
には、墨たっぷりの筆が待っている。



土本君の鼻の付け根、墨で真っ黒だ。  わっ っと言うて
かわした時は、すでに遅し。 墨べったりだ。

ワシ、やった・やった・と大満足。 土本君は洗面所へ行き、顔を洗っ
て来た。



ワシ、愉快で愉快で、その日一日、笑いが止まらなんだ。 ( 止まらな
かった。)

クックックックッ と、込み上げて来る笑いに、苦しんだ位だ。
これを書きながら、やっぱ愉快に成る。 つい、ニンマリする。

この話題、愉快だと思わんか? 所がだ。 土本君、言うのだ。








あれは、いじめだッ



な、なぬう? いじめじゃ無いよ。 ユーモアだぜ。 楽しい思い出の
ひとこまだ。 しかし土本君、なおも、






いじめだッ



ワシ、ちょっと鼻白んでね。 おいおいおいッ、あれをいじめと言っちゃあ
人生、お仕舞いだぜ。

愉快なる悪戯( いたずら )を、いじめだなんて、ユーモアが無いッ
だいたいだよ、



土本寛二君は、肝臓の専門医である。 これが、どんなに凄い駄洒落か、
諸君、判るか?

寛二が、だよ。 寛三( 肝臓 )の専門医に成るなんて、駄洒落と言わず
して何と言うのだ?



寛二が寛三を診るなんて、おふざけも良いとこなんだ。 そんな彼が、
ワシの墨一件を いじめだッ ・ ・ ・ なんて。

老化したんかい?( したのか?)  って言ってやると、





あれは、いじめだッ


って、聞かねえんだ。 ワシも負けてられないから、
あれは、ユーモアだッ   って、やり返すと、またもや、




いじめだッ


って言い募るのだ。 お陰で、いじめだッ  ユーモアだッ
いじめだッ   ユーモアだッ  って、

危うく 取っ組み合いに成るとこだったよ。



  *       *       *



諸君らは、ワシの墨一件。 ユーモアと思うか、いじめと思うか?
聞きたいものだ。



  *       *       *



そこへ新手( あらて )のネタが、入ったのさ。 今は廃刊の、講談社、
月刊現代だ。 ワシの三十五歳頃だから、二十八年前だよ。 

日本を代表する、若手十名の医師って企画でね。 読んでて思わず 寛ちゃ
んが出とると、言って仕舞ったよ。



だけどそこに出てた名前、土本寛二郎 ・ ・ ・ なんだ。 爾来( じらい )
彼に手紙する時は、



拝啓、土本寛二ろ 〜 おおお 先生 ・ ・ ・ さッ


どんな顔して開封しとるか、見たいよ。 ニャロメッて、言うとるぜ。
この頃、会ってないが、会ったが最後だ。

寛二ろ 〜 先生で、やり倒したるからなッ  見てろ、
ハハハッだぞッ




四柱推命みたいな占星術、運命は生年月日で固定されとる。 姓名判断、
名を変えて新しい人生を拓( ひら )く。

この二つの占術、あい矛盾なんだがね。 詳しく は、伊田流鑑定術で書く。
書く書くと言いながら、サッパ進まんのは、



歯科医師しないと生活出来んからだ。 年金は国民年金だから、年金では
生活不能だしな。 そこが貧乏人の悩みなんよ。

パトロン探すほどの馬力も無いしな。 ワシも、それなりに苦しんどるのだ。



姓名判断だけど、今度、仲間に見せて、土本寛二を、姓名判断で、鑑定して
貰おう。

実はワシの母も、ワシの改名をしたのだ。 本名が 公平だろ。 それを
晃嗣( こうじ )にしろ、ってんだ。



その鑑定料、七万だとさ。 ワシの母なる人、ロクでも無い事に金を使う。
ワシ、三十年後、仲間に鑑定して貰ったら、晃嗣は、中凶と出た。

姓名判断も流派が多く てね。 金だけ損した形だよ。



  *       *       *



三十年前だ。 新宿駅のすぐ 前だ。 喫茶店で土本君と話した。
土本君、確か、前年に医師のライセンス。

成りたての、ホヤホヤ先生。 腕を組み、これからの抱負。
溢れるような未来への情熱。 ほとばしり出る医学への思いなんか、

際限なく 語ったものだ。



これから何を専攻するか? 土本君、そこでは特に、力が入った。
教授、脳か心臓をしろってボクに言うのだが、

あれ、最優秀の連中が、ワンサカ専攻してるから、あの中で頭角を
現すの、ただ事じゃ無い。



いろいろ考えたんだが、肝臓でもやろうか?  と思うんだ。 そして、
肝臓を選んだ理由。 長々と話したんだが、ワシ、記憶してない。

その後しばらく して、土本君、スエーデンはルンド大学の医学部へ
寛三( 肝臓 )で留学した。



歯学でも、スエーデンは優秀である。 我らの開口運動時の、下顎切歯の
先端点の動きを横から見ると、バナナみたい形に成る。

これを最初に発見したのが、スエーデンのポシェルト先生だ。 よって
これを、ポシェルトのバナナと言う。



鉄工所でもスエーデンは、優れ者だ。 工具鋼の中に、スエーデン鋼と
呼ぶものが有る。

スエーデンの、なりは小さいが、技術と言い、医学歯学と言い。 優( す
ぐ )れておる。 見習いたい国ではある。

若き日の土本君、そんな国へ留学したのだ。



  *       *       *



ワシは五十歳からの歯学部だったが、土本君みたい情熱、涌いて来ない。
とにかく 彼の語り。

留( とど )まる処を知らずって感じだった。 半日、ひとりでしゃべってた。
今でも、あんな感じで、しゃべってるのと違うか?



講談社、月刊現代の、日本を代表する若手十名の医師。 そのままの語り
だった。

記事では、土本寛二郎だったけど、あっ、こりゃ寛ちゃんだと、即座に
判った。



土本君、寛二郎は止めて、また元の寛二に戻ってるが、姓名判断では
寛二の方が、ずっと良い。

ま、彼も、彼なりに悩んだんでしょう。



中学生時代の彼を、見たままに、二 〜 三 書いて見る。 ヒントのひとつ
なりと、得らるれば幸いだ。



  *       *       *



土本君の強み。 何と言うても、その、無限に近い努力だろう。 必ずし
も頭、良く 無い  感じがする。 ( ここ駄洒落、判るかな?)

園井君には、かなりの水を開けられとるから、これで慶応の医学部へ行けた
からには、その努力が偲( しのば )るる。



次に特筆さるるべきは、彼の人柄であろう。 栴檀( せんだん )は、双葉より
芳( かんば )しと申す。

土本君、確かに中一で早( はや )く も香りの漂う少年だった。 目立た
なかったけど、しんみりとした友情に包まれてた。



だけどね、そんな人物に成れた陰では、お兄さんの犠牲の有った事、忘れな
いで貰いたい。

彼のお父さんの存在も、土本君の成長に作用してる筈だ。 或る意味、
土本君のお父さんは、知られざる大物であったから。

ご本人、そんな事、全く意に介さずって生き方してましたが ・ ・ ・



北里研究病院で、所長に推されたのも、土本君の、その人柄だと思う。

土本君、昔も今も、自分からそんな椅子に座ろうなんて、決してしない
タイプである。

だから所長の椅子も、皆さんに押し上げられて、弱ったな ・ ・ ・
なんて言いつつ、座ってんじゃないかな?




さて繰り返す。 我ら、白洲尚蔵を造っちゃいかん。 子育て中のお母さん、
頼みまっせ。

わが子を いじるなと申し上げる。 小児科の 久徳重盛先生の本。
母原病を、我が子で証明なんかしちゃあ、いけないよッ

土本君も、お母さんの直接攻撃に晒( さら )されてたら、こうは行かな
かった筈だ。



  *       *       *



昔は、校内マラソン大会ってえのが、どんな学校にも有ってね。 我が
芦城中学校にも、勿論( もちろん )有った。

大会に備えたトレーニング。 土本君と二人。 ヒゲで有名な、あの
和田伝四郎市長の造って呉れた、末広競技場で、やったなあ 〜 。



陸上競技場、四百メートルのコース。 二人で走ったなあ 〜 。 何か、
思い出してて、涙が出て来そうだよ。

土本君の走り方、勉強と一緒。 速く は無いが、絶対に止めない。 マイ
ペースで、確実に走り抜く。 黙々と走り抜く って奴だった。



***********************************************************************



< 分校久志君は、金沢大学の医学部である。>


ワシの知ってる同級生で、医師は、土本君と分校久志君の二人かな?
分校君とは中二で、同じクラスだった。

分校君は、土本君に輪を掛けた 勉強オタク。 ド近眼の、分厚いレンズ
のメガネして、蛸壺にでも入ったような生活してた。



世の中は判らんものだ。 ワシが、歯学部の入学で、鉄工所を閉める時。
機械の搬出が、分校君のお兄さんだった。

重機運送会社の、配車責任者。 機械をトラックに積み終われば、おしゃ
べりに成ります。



ウチの久志は、ド近眼のく せに、外科医を志願してね。 無理だから止め
ろって言うても、聞かない。

手だって器用とは、お世辞にも言えないし。 勉強は良く するから、そっち
の方で使って貰えって言ったんだがね。

なるほど ってワシ、懐かしい同級生を思い出しつつ、相槌( あいずち )を
打った。



中二の同級生だったのに、ワシ、分校君の思い出は少ない。 これを書く 為に
インターネットで検索すると、出る出る。

写真入りで出た。 見ればメガネ、していないぞ。 ありゃあ誤解を招く ぜ。
分厚いメガネしてないと、分校君と思えない。




あれは A 君だったかな? 分校君、週二回、民間大手の病院で、
M R I の画像診断の出張サービスを、しとるそうな。

午前中働いて、昼前にお暇( いとま ) 。 それで幾ら貰えると思う?
って聞く から、分るかいな。 ( 分らん。)



十万円が、封筒に入ってるって言うので、ワシ、エッエエッ 〜 ッ
って、驚いといた。 いや、正直驚いた。

半日だかんね。 日当じゃねえんだ。 半日で十万は、豪勢だわな。
それが週二回だってえ?

やっぱ医者は、ええな ぁぁ 〜 ッ  ( 良いなあ 〜 )




分校君、金沢大学医学部の助教授だろ。 そっちの給与の他に、だからな。
医者は凄いのおお 〜 、 と感心してたら笑われた。 何でか?

計算上、週二十万、月八十万なれど、教授への上納金が有るだろ
・ ・ ・ に、ワシ、な・なるほどと、痛み入って仕舞った。



大学医学部はヤクザの世界と、ほとんど変らねえって事、忘れてた。
大きな声では、言えぬが、歯学部の口腔外科にも、

似た話し、あんのよ。 そりゃまた場所を変えて書く。



チョット内輪話し、するとだな。 我が歯科医師も、口腔外科の先生。
日当が十五万なんての、ザラに有る。

あく まで外科である。 しかしインプラントの先生なら、半日で40万
から、上は 80万 〜 100万 ですからねえ 〜 。



  *       *       *



そうか分校君、半日で十万か ・ ・ ・ やっぱ、億の金積んで、子供
を医師にする筈だ。
教授が、その金の上前をはねるって言うのは、同級生 A の推測だかんね。
本当の所は判らんよ。



ここ、あいまいにして置かんと、因縁を付けられる。 実際は、丸々、懐
( ふところ )に入れとるかも知れんが。

とにかく 半日で十万は、間違い無いらしい。 半日で十万ねえ 〜 。
M R I って言うのは、磁気共鳴・画像診断だったかな?

大学で習ったけど、関係無いんで、忘れて仕舞った。



分校君、十五年前の卒業者名簿では、核医学研究所だった筈。 これを
書く 為に調べると、医学経営の研究? 病院経営のアドバイス?

患者と直に対面しないコースを辿( たど )っているのが、判る。
それは良い。 中学時代の 分校君のイメージ、



臨床医には繋( つなが )らぬ。 仲間なんて居たかな? ひとりで
勉強ばかしの、勉強オタクだった。

うっかり遊びに行ったりすれば、拒絶反応で追い出されただろう。



だから分校君の特性を生かす道。 医学の道、ばかりでは無いかも知れぬと
思わるる。

ワシ、彼とは中二で一年間。 同じクラスで過ごした。 あの印象からは
医者が、どうしても出て来ない。



いわゆる、成績が良いから国立の医学部へ行きましたの部類では無かったか?
お兄さんと話しつつ、そんな感想を抱いてみた。

論文の半分は、教授名にして出したそうであるが、そんな事より、勉強オタ
クなら、もっともっと世の中に貢献出来る道は、無かったのか?



分校君の、さらに有効な使い方。 それだけじゃ無いだろうに。 と思って
みる。

この辺りの文には語弊が有るから、文句が来たら、追加掲載する。



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だいたいだ。 これを書く 為に検索すると、分校君、医療情報部と出る。
病院経営に、アドバイスだと?

そんなアドバイスする前に、分校君に、そんな仕事をさせた教授に、アド
バイスしたく 成る。



それって、分校君の最適な用法ですか? ・ ・ ・ と。 分校君、ペーパー
テストの成績は良かったが ・ ・ ・  だよ。

友人交際なんて、お断り。 勉強オタク、まっしぐ ら。 仲間が、彼んち
( 家 )へ遊びに集まったなど、聞いた事無いタイプ。



教室でも、別格扱い。 と言うより、一人で何かをしとるのを好むタイプ。
そんなタイプの人間を、だな。

医療情報部などと言う、人間関係の資質があってこそ、機能するよな分野。
そんなポジションに、何故、進ませたか? 理由を聞きたいよ。



分校君、四十才代の核医学分野の仕事と、どう関連するのじゃ? 別分野じゃ
ないか。

分校君は、先に出た 満田君同様に、人間関係が必要な分野、駄目なのだよ。



ワシがもし、分校君の指導教授なら、勉強オタクでないと、絶対に達成不可
能なテーマを、見付けて与える。

そして、勉強馬鹿、研究馬鹿でないと到達不可能な業績を出せと、彼のケツ
を叩く。

分校君の少年時代の生き方を延長すれば、そんな世界が見えて来る。 それ
を見抜いて使うのが、指導教授の愛、じゃろが。



  *       *       *



それを雅量と言い、慈悲とも訳す。 ワシ、個人的には分校君と合わない。
あれは中学二年の教室だった。

ワシ、分校君に面と向かいて、おいッ○○と、渾名で呼んだ事あった。
教室の全員が居る中で、である。 こりゃ勿論、良い事じゃ無い。

侮辱である。



だけど周りの同級生の気分の、総和でもあったから、失笑を買っただけで
終った。

ちびで、ド近眼で、運動神経ゼロで、クギを上手く 打てない様な少年だっ
たけど、テストの成績だけは抜群に良かった。

だからこそ、金沢大学の医学部などと言う超難関を、突破出来たのだ。



分校君も、先に出た 満田君同様。 使い方が有る。 折角 ド の付いた
勉強オタクなんだから、

むしろそれを加速させて、世の中に貢献する、何かの業績へ、手助けして
上げるのが、指導教官の腕でこそ、あろうに ・ ・ ・



医療情報部などと言う肩書きを見て、そんな事も考えて見た。 分校君、
見て判るように、患者と直接接触するよな臨床は、流石にしてない。

お兄さんに依れば、論文は心臓だったそうな。 核医学と言い、M R I
と言い。



いわゆる臨床の周囲に在って、臨床を支援する分野である。 なるほど
やっぱ分校君らしい仕事だなと、言えるが、

今回の医療情報部ちゅうのは、気に入らん。 過去の仕事と、連続性を
遮断してないか? 適性は、吟味されたのか?



大した調査もせずの文だから、加筆・訂正は覚悟の上だ。 その時も、
こそっと直したりは、せん。

根拠を明示して直す。



今、ワシの手元に、中学二年時、朝岡( 女教師 )教室の全員写真がある。
分校君、背が低いから、最前列。

分厚いメガネに、ド近眼のしかめっ面して、カメラじゃなく、視線、斜め下
を向いておる。



  *       *       *



ワシ、五十歳から歯学部だった。 いろんな教授を見とると、医局の優秀な
スタッフを、追い出すのが、たまに居る。

業績を出さない様に、糞( クソ )テーマを与え、文字通り、腐らせよう
とする教授も居る。



ミーハー研究員ばかり集めて、嬉しがっとる教授も居る。 成績だけで、
あたま だけで、教授にしてはいかん事が、これで判る。

教授に求められる第一は、雅量である。 歯科医師に求められる第一が、
心掛けであると同様に、個人成績は良いが、雅量に欠ける教授は、

降格させる制度を作れ ・ ・ ・  と言いたい。



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さて、次の段では、中学時代の同級生。 書き残した連中を見る。
そのあと高校時代の同級生に移る。






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