*  自分史 製造業系 ( 五十歳までのワシ。 鉄工所三十二年間の想ひ出 )  *   < kujila-books ホームへ帰る >

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第 4 章  *  ワシの同級生賛歌

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< 山口俊久君は、電気少年だった。>





山口君が、明星大学の電気科教授に成ったのは
四十才前であったか。とにかく 早かった。
同窓生では、教授一番乗りだった。

地元新聞の広告の企画に、高校の同窓会ってえのが有ってナ。
母校を出た後、功成り名を遂げたと自負する連中、
広告費を出して自分の名を掲載するわけだ。

そこが地元新聞の付け目でナ。
山口俊久教授、まんまと引っ掛かり、
如何にも嬉しくて堪らんと言う風情で、
小松高校第19回卒業・明星大学電気科教授って出したわけだ。

こんな風に、教授に成れるか成れないかは人生の重大事だ。
ワシも五十歳から明海大歯学部だろ。似た様な年齢の助教授、
教授への昇格戦に、しのぎを削るの目の当たりにすれば、
嬉しく成る気持ち、痛いほど判る。

まずは率直に、オメデトサンと言おうじゃないか



*     *     *





< 山口俊久君の、お祖父さんについて >


山口君ちは、教育者の一族でな。 ご両親がすでに、学校の先生。 これ
から話す お祖父さんも、

やっぱ学校の先生。 退職後、我ら芦城中学校の図書館の、図書司をなさっ
ておられた。



この先生が山口君の一族と判ったのは、高校へ行ってからだ。 中学時代
は知らなかった。

生徒会をしてた頃だ。 文化祭やら発表会やら、有るとだな。 演壇の
うしろの壁に、文化祭の文字、張らにゃならん。 我ら、



画用紙と筆持って、図書室へ行くのさ。 先生、題字、書いて下さい。
一回目、先生、ぎょろっと我らを一瞥( いちべつ )して書いて呉れた。

二回目、あらかさまに不快な顔、しながらも、書いて呉れた。 三回目
だよ。



いわゆる切れたって奴でね。 君らなッ、ボクを何だと思ってるんだッ
ボクは ねッ、プロの書家なんだよッ




ボクは一字、何万円のプロなんだよッ


君ら、失礼じゃないかッ  ボクを只働きさせて、ボク、もう
書いてやらんからなッ

お顔を真っ赤にされて、凄い憤( いきどう )りだった。 我ら、困ったナ
の表情で、見てるだけ。



でも先生、これが最後だからなッ  もう二度と書かんからなッ
などと、ぼやきつつ、

お顔が真っ赤のまま、それでも書いて下すった。 アリガトサン。
てな事、有ったもんで、いよいよ山口俊久君の思い出は、深まる。



  *       *       *



小松高校の一年時だった。 山口俊久君、遊びに来ないかって言うんで、
高校の帰り、

ちょい、寄ってみた。 ご両親、学校の先生だろ。 夫婦が共に公務員
なのを、二馬力、言うてナ。



公務員の給与、男女差無し。 どっちも男の給与が貰える。 公務員の
天国は( 極楽とも言うが )定年後にやって来る。

年金額、現役時代の半分だかんね。 夫婦で先生してて見ろ。
定年後の一家の収入、父ちゃんが現役の家と、同じだかんね。



縁側で玉( たま )の日向ぼっこ、終日、眺めてても。 盆栽の手入れ
に余念無しでも、

毎月の銀行の口座には、年金が、正確に振り込まれて来るのだ。
これが公務員の迫力だ。



  *       *       *



余談ながら、この本の第二章に有る、ニセ警官の四郎叔父( 土田俊策 )
娘は学校の先生だ。

その婿さんは、け、検察庁の事務官だ。 一家に公務員が三名だ。
すると、どう成るか?





三名の五十代の給与の合算は、
二千万を越すッ

退職金の合計は、一億円だああッ

年金の合計では、一千万を越すのだッ



公務員の給与は、公務員が一家に一人を基準に設定される。 一家に
一人の公務員が居れば、生活の保障される給与だから、

一家に公務員が三人居れば、その家たるや、資産家に成ってしまうのだああ



ワシ最近、公務員に成れましたって話、耳にすると、お目出とう御座い
ますと言ってしまうのだ。

本当に、お目出とう御座います。 世の中がしょぼくれて来ると、公務員
の有り難さ、しみじみと身に染むと思う。

先のバブル、公務員が足を引っ張って潰したのも、ここから、なのだ。
公務員、経済が萎( しぼ )むほどに、幸せを感ずる種族ではある。



  *       *       *



国家と地方の公務員の給与の総額は、三十五兆円を越える。 税収が
四十兆前後だから、

日本は、税金集めて公務員に配ってる国と思えばよい。



これに我ら医師・歯科医師への診療報酬の三十五兆を加算すれば、合計が
七十兆だんぺ。

公務員の皆様、お調子に乗らないで下さい。 医師・歯科医師の我らも
図に乗ってはいけない。

と、ワシは、常々申すので、アリンス。



だから公務員してて、共産主義って方々を拝見しますと、ワシ、笑えて
来るのです。

公務員の、この有利さを、赤旗振って、お守りのあなたを、マルクスさん
が見れば、反共に成るでしょうな。



公務員と、ワシら医師・歯科医師が、日本を滅( ほろ )ぼしますッ
でもこれ、どうやって改善すれば良いのでしょうか?



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けしからん事の、その 2 は、厚生年金と国民年金、その積み立て金の
大半が、建物や保養施設に、されて仕舞ってるって事です。

しかるに公務員の共済資金だけは、そのまま、手を付けられる事も無く、
無事・健全に運用され、そっくりそのまま残っておるって事です。



この問題は、極めて深刻だから、別の場所にて再論す。 つまりだ、
何を言いたかったのかと言うとだな。

山口君ち( 家 )は、ご両親で学校の先生しとるのに、自宅へ上がって
見れば、安普請の家だったって事、書こうとして、

ついつい公務員全般への、嫌味に成って仕舞ったのだ。 失礼、先を
急ぐ。



でも、この年金の問題は、深刻だぞ。 日本が公務員天国だって事は、
今に始まる話でも無いが、

経済の頭打ち時代、少子化の時代、高齢者過剰の時代。 そして国家
負債が圧( の )し掛かって来る時代。



厚生年金と国民年金の破綻の責任、公務員は、絶対に取らないからね。
公務員制度そのものが、

誰にも責任の発生しないシステム、だからね。 責任の所在は、不明だ
けど、破綻は現実だから、



厚生年金と国民年金の受給者は、そんなわけで、我慢頂く以外、ありま
せん。 なんて、やがて言われるのだ。 絶対確実に。

公務員の年金以外の、年金の破綻は、今、この時点での現実だ。 やって
呉れましたね、では済まんぞなもし ・ ・ ・ なのです。



国民は、こんな風に、嫌味を言うだけ、です。 公務員、痛くも
かゆくもありません。



  *       *       *



< 山口俊久君の勉強部屋は電子模型のアジトだった.>


遊びに来ないかってんで、高校の帰り道。 山口君ちに、立ち寄った。
安普請の家に驚いたは、既に書いた。

階段を上がった部屋である。 八畳の板敷きだ。 窓際の机は、分る。
問題は右手、壁一面が雑誌なんよ。



模型の製作。 ラジオの模型だったかな? 兎に角だ。 大判のラジオ
関係の雑誌、床から天井まで、

びっしりの一杯なんだ。 あれにゃあ魂消た。



勉強机ってえのが、これまた、おふざけでね。 半田ゴテが有って、製作
途上のラジオだか、無線機だか、

とにかく、電子部品のびっしり乗った樹脂の板。 半開きの雑誌の、設計
図の上に置いてある。



これ、組み立て中なんだ。 そんな事、見りゃあ判るよ。 だけど引き出
しの中、抵抗器だか、コンデンサーだか知らないが、

ニッパと一緒に、ドサッと這入ってる。 見回した所、学校の勉強道具、
どこにも無( ね )えんだよ。



そこへタイミング良く、山口君のお母さんだ。 ジュースなんか持ってよ。
うちの子、こんな事ばかりで、勉強、ちっともしないんです。

困ってます。 なんて言うからさ。 ワシ、馬鹿を言いなさんなと、たし
なめておいた。



  *       *       *



お母さん、今の日本は、だな。 こんな少年をこそ、求めておるんじゃな
いですかッ

技術立国日本の、明日を担( にな )うのは、こんな少年なんですよ。
こりゃお母さん、大事に育てて、大成させてやんなきゃ駄目ですよッ



若い頃から、ワシはこんな調子だったナ。 こっちは電気も電子も、サッ
パだから、あの時点での山口俊久君のレベル、

判断しかねるが、こと、ラジオ関係では、十六歳にして、大学院レベルの
学識だったんじゃねえか? ・ ・ ・ と、

秘かに畏怖した。



この手の人間に有りがちな様に、山口俊久君、寝ぼけた口調で、最近は
テレビの組み立てを、しない様にしてるんだ。

だってあれ、始めると半年掛かるんだもの。 なんて言うからさ、ワシ、
苦笑いしちゃったよ。



さいでっかい   と言うといたがね。 だけど芦城中学には、
この手の、トンでもねえ少年、居なかったなあ。

小松高校へ行って見ると、こんな具合に、桁外れに面白( おもろ )い奴
が、結構居たんだよ。



  *       *       *



世の中は広いな 〜 ってとこだ。 ワシ、山口俊久君、将来はパナソ
ニックか、日立かソニーか、はたまた何処かの企業の研究室。

凄い発明家にでも成るんじゃなかろうかと、大いなる期待をしとったのに、
ヤッパ、血は争えないと言うか、



山口家の教育者の血が、騒いだのでしょう。 大学の教員に成って仕舞
った。

大学の教員でも、東北大学の西澤潤一先生みたい、世界的な発明家も居ら
れるから、山口俊久君も、気張ってや。

期待してまんのやで。 ホンマに頑張ってやッ



  *       *       *



山口俊久君、小松高校一年時の成績は、中位だった。 それが、だ。
二年時、ジェット戦闘機の急上昇よろしく、

トップグループへ突入だ。 大躍進だった。 そしてそのまま、東京工業
大学の電気科へ入学。



その次に見れば、明星大学の電気科教授様だろ。 写真入りで紹介され
とるが、高校時代と同( おんな )じ顔だナ。

この手のマニアックな少年は、ひとたび風を翼( つばさ )に受けるや、
こんな飛翔を、してしまうのだ。



ひとつ、次代を担( にな )う、センス有る若者を、ドッサリ造って
呉れい。 さらには君自身の研究と創意も、頼みまっせ。

日本は、技術立国以外に、生きる道は無いのよ。 住んでる人間以外の
資源、何か有るか? マネーゲームは、丁半博打と変わらんからね。



若者の理科離れ、ゆゆしき問題だ。 今の日本の教育制度、やや制度疲労
の感( かん )が有る。

これも、別の場所で論ず。



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< 山口君の、絶対に忘られぬ 想い出 >


それは何か? 言うとだな、高校へ入って直ぐだ。 四月の下旬だったと
記憶する。

一年八組・森田( 女 )ホーム。 クラスの自由時間でナ。 何をするか?
他己紹介って言う、お遊びでも、しようかいなって事になり、



司会がすなわち、山口俊久君だった。 山口君、愛称は ガマグチ君。
口が大きいからじゃ、ねえんだ。

名前のやまぐちを、だみ声で何回も言ってると、ガマグチに成るじゃない?
それで、おいっガマグチ。 お前司会しろっ、と成ったわけだ。



ベビーブーム、ど真ん中の我ら。 教室は五十五人だ。 ぎゅうぎゅう
づめ。 それが熱い吐息で、他人様の発言をしようってわけだ。

そして驚いた。 教室の三分の二が、だよ。 一番で入学の満田君
( 田上満君 )を書いたんだよ。



  *       *       *



他己紹介じゃなく、ワシには嫌味に聞こえる内容だった。 いわく、満田
君は勉強ばかりしてないで、

もっとみんなと遊ぶべきだって言うのさ。 これは山口俊久君、いちいち
読み上げたから、ご不審の向きは、山口君に確認して呉れ。

ワシ、嘘は言っておらんぞ。




聞いててワシ、ムカッとしてナ。 言うてやろうか? と、のどまで出掛
けた言葉、飲み込んで仕舞ったのが、今に悔やまれる。

ワシの紙には、他人様の事なんざ、おら知らねえって書いただけ。 あの
時だ。 これを言っておれば、晴れ晴れしくも、ここに書けるものを。



言うべき時に言わなかった悔い。 五十年後の今も、ワシを苦しめる。
では何を言おうとしたのかを、以下に記す。

ワシは、こう言いたかったのだ。



***********************************************************************



諸君らは、了見が狭いぞッ

満田君を、人間関係の世界に引き込もうとするのは、彼の才能を引き降ろ
そうとするのと、同じ事だッ



満田君は、だ。 学問に没頭させとくのが、我らの友情ではないのかッ
彼の才能は、学問と研究に特化しとる。

それ以外は、普通人以下だぞ。 君らの提案は、満田君を得意の世界から、
不得意の世界へと、引きづり出そうとする、卑劣な行為だッ



ワシなら、むしろ、こう言う。 満田君、君は、勉強だけしてて呉れ。
それ以外の、よしなし事ども、我らが始末す。

君は勉強に、集中して呉れ。 ただし、だぜ。 日本の科学技術の進化に
大貢献しないと、君は生きて行けないぞ。



つまりだ、我らが君を守るのは、君の極端に特化した才能が、科学の発展
に有効だと、予感してるからだ。

なのに、大した成果も出なければ、この変則的な体制の維持、破綻するぜ。
君は、そんな具合に、とんでも無く極端な人間に生まれ付いた以上、



覚悟を決めて学問の世界へ、身を躍らせて貰いたい。 そして大きな成
果を出して貰いたい。

君の生きる道は、それしか無いと、覚悟を決めて貰いたい。



  *       *       *



諸君ッ  ワシの言いたかったのは、これだけだッ
満田君みたい、凡人には理解し難い才能の人間を、だな、

自分の水準まで、引き降ろしたり、すんなよッ
解ってんのかッ、諸君ッ



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ああ、これを言っておけば良かったと、五十年後の今、真に悔やまれる。
当の満田君( 田上満君 )、小松高校を一番で入って、一番で出て、

東大化学・同大学院から、三菱化学の研究所だ。 彼は、その道でしか
生きられないんよ。



あのクラスルームの時間、勉強ばかりしてないで、もっとみんなと遊ぶべ
きだって書いた人、恥かしく思えッ

優秀な才能を、引き降ろそうとした自分を、反省しろッ



司会してた山口俊久君、今、明星大学・電気学科の教授しとるのは、
書いた通りだ。



***********************************************************************



山口俊久君は、こんなもんで良かろう。 ワシが彼に関与するとは、研究
の邪魔するのと、同義語、だかんね。

そっちで一人静かに、遊んでて呉れ。 なんて、言われてしまう。



では次の、林利行君に行くぞ。 この林利行君、高校時代、何と無く、
周恩来みたい印象の残る人物だった。

彼のお父さんも凄い。 地元では、立志伝中の人物なのだ。 それから
更に驚くべきは、



林君のお姉さん、あの小説の徳川家康で有名な 山岡荘八の、夫人な
のだ。

つまり 林利行君は、山岡荘八の、義理の弟って事になるのだッ



ワシ、手が震えて来た。 こりゃ、次の段。 しっかり書かないと、後世
の研究者に笑われる。 下手すると、一級資料に成るのだから

林君みたい凄い方と、同級生、させて頂いたご恩、感謝しないといけません。



では、つつしんで次段へ、行かせていただきますです。






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