*  自分史 製造業系 ( 五十歳までのワシ。 鉄工所三十二年間の想ひ出 )  *   < kujila-books ホームへ帰る >

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第 6 章 * 6 / 7

小松警察署の私兵化問題



< 白江ユキ氏を再考す >



雌鳥、時を告げて何とやらと申す。
ワシ最初、白江ユキ氏は大物だと思った。
なにしろこっちは母親の過干渉に苦しみ、
あわや自殺の精神状態だ。
そんな中、ことさら大きく見えた。

しかしながら以下の事例などにより、
ワシは序々に醒(さめ)て仕舞った。

南洲公( 西郷隆盛公 )いわく、大誠実と。
このページを読みて、白江ユキ氏が人生において、
誠実の名に値するかどうかの判断を、
諸君らに請うものである。

では始める。


*     *     *




< 白江ユキ氏は大女優か? >


白江家に紹介された頃だった。 居間に坐っていると来客である。
大切な方であるらしく、ワシ、隅っこへ追いやられた。

なるほど重要な方だったと思う。 厳( おごそか )な顔付き、広い
肩幅、堂々たる重役タイプだ。 背広が似合ってた。



同伴の夫人も同じく、良いお顔立ち。 何の御用であろうか?
白江ユキ氏、恐ろしく下手( したて )だ。

それ所では無い。 話が進むに連れ、畳に両手を付き、頭を垂れ、
何かを懇願する形だ。



ワシ、何事かと耳をそば立てて見てた。 ユキ氏、息子の事を頼んで
るらしい。

わたくし共には、あなた様のお力に縋( すが )りするより外、どう
する事も出来ませぬ。 どうか、どうか、お助け下さいと言いつつ、



畳に付いた両の手の間( かん )には熱き涙。 文字通り、ボタボタ
と音までさせて落とし、

それが後から後からの、滂沱( ぼうだ )の涙、なのであった。



傍( かたわら )にて、これを見てたワシ、感動で胸が熱くなった。
嗚呼( ああ )白江ユキ氏とは、

何と言う立派な婦人であろうかッ




こんなにも素晴らしい婦人が、こんなにも近くに居たなんて、今の今
まで知らなかった。

誠に誠に大婦人と言うべし。 想い出しても実に、感激的場面だった。



   *       *       *



ご来客の紳士も又、白江ユキ氏の、大地を揺るがさぬばかりの熱き
懇請に、胸を揺すられたかの如く、

非常に困難ではありますが、何とかしましょうと約束されたのだった。



その言葉を聞くや、ユキ氏。いよいよ頭( こうべ )を垂れ、有難う
御座います、有難う御座いますと、

聞く者の肺腑( はいふ )を、抉( えぐら )ずには置かぬ熱誠にて、
感謝を述べたのであった。



   *       *       *



何と言う感動だったろうか。 ワシも貰い泣きして、眼頭を拭
( ぬぐ )った程だ。

客は帰られた。 白江ユキ氏は主人共々、玄関に出て、見送った。
ご夫婦の車が見え無くなるまで見送ってから、

白江夫妻は居間に戻って来たのであったが、ここからが問題なのだ。



今から思えば、ワシもあの夫婦と同じく、その時、暇( おいとま )
すべきであったと思う。 そこまでは感動的場面だったのである。

この先が良くない。 何が有ったと思う?  言うべからざる事とは、
こんなのを言うのだ。



   *       *       *



客を見送った白江ユキ氏、それまでの態度を一変。 はしたなきゲラ
ゲラ笑い。 むしろ、

キャァ 〜 キャァ 〜 に近い、それこそ下卑た歓声まで上げ。 傍の
( かたわらの )亭主とふざけつつ。

ワシの居る居間へと帰って来たのだ。




その態度の余りの変化に、何じゃいこれはと、ワシ、唖然と成った。
そしてワシの前まで来た、白江ユキ氏。

ねえ、いるか君、見たでしょ。 わたし達はね。 何時も、あんな風
に、してるのよ。



自分の力では、どうする事も出来ません。 あなた様のお力に、お縋
( すがり )する以外、何も出来ません。

どうか、どうか、お助け下さいと、自分を無にして、縋( すがり )
付くのよ。



そうするとね、どんな人でも、今まで一人の例外も無く。 最後は、
こっちの思う様に動いて呉れるの。

わたし達は、これまでズゥゥッ 〜 と、このやり方で来ました。
このやり方で外した事、一回も有りません。



わたし達は、このやり方で、全部、全部、成功させましたッ
このやり方で、どんな人も、

こっちの思う様に動かして来ました。 言うて、




アハッハッハッハッハッハッハッ
アハッハッハッハッハッハッハッ
アハッハッハッハッハッハッハッ
アハッハッハッハッハッハッハッ




と際限も無く、笑い、さんざめくのであった。



   *       *       *



興醒( きょうざめ )とは、こんなのを言うのだろう。 さっきまで
の感動は何処へやら、

なあんだ演技だったのか ・ ・ 白々( しらじら )とした気分に
落ちた記憶、有ります。



こう言う場面は、見て、いけないのです。 こんな裏を知らないのが、
人生の幸せです。



これ以外にも、白江ユキ氏。 必要が有れば全身で、それこそ、この
世の終わりででも、あるかの如き調子にて、

盛大に泣いて見せるのでした。 ワシも一度、泣き付かれた事、有り
ましてナ。



ワ〜ワ〜と泣きに泣いた、ユキ氏。 ワシに言うたのです。  ねえ、
いるか君。 わたしも、これだけ泣いて上げたのだから、

もうそろそろ、こっちの言う通りに成って呉れて、良い頃じゃ無い?



ワシ、ムカッとして、睨み付けてやりました。 泣いたのは芝居だっ
たのかと言ってやりました。

白江ユキ氏、おっとっとっとっ。 と言わんばかりの風情にて、顔を
背( そむけ )ました。



   *       *       *



上記の客の名は、書きませんが、小松市所在の大企業の、相当なる地
位の方です。

その方、たまたま、ワシに目撃されました。 その他、白江ユキ氏
から、この手でアプロ〜チされた方。



ワシの、この文章を参考に、白江ユキ夫妻のやり方を、心得て置いて
下さい。 あれは手ですから。

石川県警・小松警察署の刑事課でも、この手を使ったのでしょうか?
それとも別の手でしょうか?



我らは千万の金を積んでも、刑事課を私用で動かす事。 とうてい出
来ません。 刑事だって気味悪いですよ。

しかるに白江ユキ氏、小松警察署刑事課を、物の見事に私用で使った
のですから、その実力が、偲( しの )ばれます。



お陰様でワシ、出ても居ない家宅捜索令状で、M 刑事課長( 当時 )
に、四時間も吊るし上げです。

刑事だって人の子です。 我が身が可愛いいです。 下手すりゃ人生
を棒に振るよなヤバイ橋。 簡単に渡りませんよ。



白江ユキ氏は、それを渡らせたのです。 凄い力です。 辣腕( らつ
わん )です。

しかしそれは、不正です。



   *       *       *



西郷隆盛ではありませんが、これだけの実力の方なれば、誠実も併せ
持てば、鬼に金棒だったでしょうに。

白江ユキ氏の裏側の顔を、小松の有力者の方々は、是非とも認知すべ
きです。



年に三回。 五月の端午の節句と盆と暮れに。 白江家から贈答の品
を送り届けられる小松市の有力者の方々は、

このページを、特に吟味して読むべきです。 その人数は、約十五名
です。



年に三回の贈り物を、まだ貰って無い方は、軽く見られたと思って
下さい。

ウチには持って来ぬのかと、嫌味のひとつも言える方は、根性が有り
ます。 試しに言ってみるのも手です。

肝試しに、是非どうぞ。



   *       *       *



< 加戸清男は、税金を払っていない。>



加戸清男は、小松市今江町在住の方である。 トラックを一台所有
して、個人にて運送業をしてた。

白江ユキ氏の和裁塾に、夫人が通ってたので、この話に登場とは成っ
たのです。



ワシ、白江家のお子さんから、こんな話を聞いた。 ウチのお母さん
は和裁塾で、お父さんの収入より稼いでる。

白江俊雄氏は広崎外科病院の事務長です。 その収入は押して知ら
れる。 少なく無いでしょう。



本・爆笑五十歳の第四章の最初の段にて、広崎外科病院事務長・白江
俊雄氏の、給与以外の収入について書きました。

夜間、広崎大三郎医師の代理で患者宅へ往診に行く。 高齢患者の
往診をする。 帰りがけ、心付けが出る。

もっとも出さぬ家も有るそうですが ・ ・ ・



それらは小額なれど、総計すると馬鹿に成らぬとは、白江俊雄氏、
自身の述懐でした。

ある時、こんな話を聞きました。



   *       *       *



広崎大三郎医師は戦後、遊郭のお女郎さんの、性病検査の保険医を
して居た。 もっとも、この話をすると先生、顔をしかめましたが。

その関係か、性病患者の来院が多い。 当時の日本、東南アジアへ
買春 ツァ 〜 が、大ブ〜ム。



いけない海外旅行のお土産は、梅の病、でええ 〜 す。 そんな患者、
団体で来たそうな。

白江俊雄氏の言う所では、治療代を、広崎大三郎医師は記入しない。



よって白江氏、相手を見て、気に喰わん奴には治療代、高めに付けて、
集金したそうである。

病気が病気だから、みんな良く払ったよ。 言うて、白江俊雄氏が
笑った事。 昨日の様に思い出される。



集金した金額の内、或る金額は、おやじ( 広崎大三郎医師 )の机に
置いとく。 後は知らない。

金額で文句言われた事、無いそうだ。 続けて白江氏。



わしが集金したのだから、手間賃くらい貰っても、罰は当たらんと
思う、との事。

こう言う、給与以外の余禄を加算すれば、白江俊雄氏の年収は、かな
りの額に、上( のぼる )でしょう。



されば、夫人のユキ氏。 雑収入まで含めた亭主の総収入より、さら
なる収入を得てるとなれば、

税金。 さぞかし巨額ではないかと思い。 ワシ不覚にも聞いたのだ。



ユキ氏、あざ笑いを浮かべつつ、にべも無い調子で、こう回答した。
加戸さんのご主人( 清男氏 )は、年収、二千万超えてますが、

税金は、一円も払ってません。



   *       *       *



つまり自分とこも加戸清男さん同様。 税金なんざ、払ってませんの
意味だ。

つまらん質問は、するなよの気分。 ありありと読み取れた。 ワシ
恐縮してホゾを噛んだ。



   *       *       *



ワシはユキ氏に税額を聞いたのである。 返事は加戸清男の脱税行為。
なるほど、年収が二千万を超えてるのに無申告はいかんですナ。

すると白江ユキ氏も、同じく無申告で、脱税してるって事ですか?



その後、ユキ氏の話を聞いてますと、加戸清男の高収入の原因は、単
なる運送業、だけでは無いらしい。

小松の市民なら、秋の刈り入れ時。 荷台に山の如き稲ワラを積み上
げたトラックを、目撃した事、有るかも知れぬ。



あれが加戸清男の高収入の秘密だそうだ。 あの稲ワラは、奥能登の
農家から仕入れる。

仕入れ値は、ゴミの値段。 つまり超安値。



それを京阪神の畳製造業者へ持参して、畳の原料として売る。 この
差額こそ、加戸氏の高収入の秘密なんだそうだ。

白江ユキ氏、嘆息していわく。 奥能登の世間知らずのドン百姓ども
は、稲ワラを、自分で畳屋へ売れば良いのに。



ゴミみたい稲ワラが、現金で売れたと大喜びしてるけど。 京阪神の
業者に、畳の原料として高値で引き取られてる事、知らないんです。

世間知らずの奥能登の百姓は、自分達が、良いカモにされてる事を
知らないんです。



十年も続ければ、一億どころか二億円に届く金額ですよ。 本当に、
本当に、世間知らずほど恐いものは無いです。

奥能登の、お百姓さんの所へ行って、教えて上げたい位ですと、白江
ユキ氏。 嘆息するのでした。



ま、その通りですな。



   *       *       *



その後、市内で、稲ワラを満載した加戸清男のトラックを見る度に、
ワシは、ユキ氏との会話を、

胸の内にて、反芻( はんすう )するのである。



ここには三つの、改めたい行為が存在する。 トラック運送業者、
加戸清男の脱税行為。

話して呉れた白江ユキの脱税行為。 そして、ゴミの値段で売却した
稲ワラが、



大阪や京都では、畳の原料として高額で販売されてる事を知らない、
奥能登のドン百姓さん達の無知である。

是非とも改善したい行為と状態ではある。



   *       *       *



< 命を救って呉れた脅迫電話 >



白江俊雄氏の妹は、市川氏なる人物に嫁いでる。 市川氏の仕事は、
針灸按摩業である。

この方、裁判の終了後、ワシの工場へ電話されて来た。



言葉が不自由である。 だもんで言いたい言葉が、直ぐ出ない。
し・し・し・し・と、

苦しそうな声が受話器から聞こえて来た。 三分ほど掛けて、
漸( ようや )く言葉に成る。




し・し・し・し・し・し・し・し・し・し・し・し・し・し・し・し・
し・し・し・し・し・死んでまえッ

で電話ガチャッ。




こんな電話をワシ、市川氏から数回頂いた。 この手の電話を分類す
れば、まあ脅迫電話でしょうな。

世の中とは本当に、判らんものだと思う。 裁判が終われば、かねて
予定してた自殺。 実行しようかなと考えて居た折だよ。



市川氏の、死んでまえの電話で、何と無く中止。 こんな電話が来て
は、自殺なぞ、やってられません。

考えが逆転しました。






糞ったれメッ
死んでたまるかッ




殺されたら仕方ないが、殺されぬ限りは、生きて生きて、生き抜いて
やるぞッ

自殺は中止だッ  こうなりゃ、奴らが反吐( へど )吐く
まで、トコトン生き抜いてやらあなッ

と、そんな気持ちに成ったのであります。



   *       *       *



また市川氏の死んでまえ電話で、ワシ、直感的に思った事、有りまし
た。 それは、ああこの人、

来世もまた、言葉が不自由だなあああ ・ ・ ・ です。



市川氏は白江ユキから、ワシの悪口など吹き込まれたのでしょうが、
身体に障害をお持ちの方は、純真な方が多いので、

白江ユキの言葉を信じて怒りを燃やし、死んでまえの電話を、ワシに
掛けたのでしょうが、



お陰様で市川元成氏、来世の心配が出て参りましたぞ。
ご自戒あるべし。



   *       *       *



裁判が終了して、一ヵ月目と言えば、工場の近くで白江俊雄の、
夜間、広崎大三郎医師の代理で往診していた、その現場を、

ワシが目撃した頃です。 白江俊雄はワシと目が会い、みるみる
蒼白に成った頃です。



こんな事実が有りながら、市川の嫌がらせ電話。 また白江ユキの
悪口とは、一体何事であるかッ

と、心底、腹が立ちました。



こう成りゃ、死んで堪るかッ 殺されない限りは、生きて生きて、
生き抜いてやるぞッ

と、腹の底から思ったものです。



   *       *       *



これ、市川氏の脅迫電話の趣旨から言えば、逆効果です。 市川氏は
本気で、ワシに、死んでしまえと言ったのでしょうが、

結果は逆。 命を助けてしまった。 思いも依らぬ結果とは、この事
です。

死ぬ筈の人間を、生き伸ばしてしまった。



それ所じゃ無い。 この思いが、三十五年後。 遂に、この第六章と
は成ったのです。

怨念( おんねん )ですナ。  怨念が遂に、こんな文章に成って
仕舞ったのです。

あな、おそろし。あな、おそろしとは、この事です。



   *       *       *



本当は、この第六章。 もっと先に、十年後に書く予定でした。
広崎大三郎医師の死去を知り、早めました。

こうして第六章を書いても、広崎大三郎医師は読みません。 読めま
せん。 広崎医師が読まない事が、

こんなにも無念だとは、知りませんでした。



   *       *       *



嫌がらせの電話ですが、市川氏ばかりじゃ無い。 裁判中から昼夜を
問わず、工場へ掛かって来ました。

受話器を取ると切れてしまう。 そう言う電話。 だから市川氏の脅
迫めいた電話は、むしろ立派だと思うのです。



発信者が、正体を明しての電話です。 その上、死んでしまえの言葉
のお陰で、ワシ、死ぬのを止めました。

考え方に依れば、市川氏こそ、命の恩人です。 有り難い方だと思っ
ております。



ご本人の意図と、逆の結果に成りましたが、市川氏は或る意味。
ワシにとりての諸天善神。

面と向かいて、死んでしまえと言われたワシ。 腹の奥より、ムラム
ラと力が湧いて来て、



死んで堪( たま )るかと思ったのでした。 人間、何処で、きっか
けを掴( つか )むか、判らんものですナ。

殺す積もりが、むしろ、死ぬのを救って仕舞ったのです。



   *       *       *



世間に、あの人に、あんな事を言われたから、自分は駄目に成ったの
だと、おっしゃる方が居られますが、それは間違いです。

何を言われたにしても、それで駄目に成る人は、何も言われなくても
駄目に成ります。



芦城中学の三年時でした。 絵画の時間に、西出外吉なる先生が居ら
れました。 西出先生いわく、

人と言う者は、決して叩いてはならぬ。 頭を叩きて、それで凹( へ
こ )むような奴は、叩かなくても凹む。



だから叩く必要は無い。 そんな奴は、放っとけば、一人で勝手に、
凹んで行く。

うっかり、根性の有る人間の頭を叩いて見ろ。 この野郎言うて、
そいつ、ムクムクと、のし上がって来る。



今まで凹んでたのが、なに糞と、立ち上がり。 こっちに向かい、
攻めて来る。

人の頭を叩くなどと言う行為は、利敵行為だ。




だから人間と言う者は、決して頭を叩いてはならん。 むしろ、相手
を駄目にしたい場合は、

これを褒める。 褒めて褒めて褒め殺す。 なかんづく、相手の欠点
を褒める。



何故に相手の欠点を褒めるかと言うと、相手に、その欠点を改善され
たら、そいつは自分を越してしまう。

越されたら、こっちの負けだ。 負けちゃ敵( かなわ )ない。 負
けない様にしたい。



それには、そいつの欠点を褒めて褒めて褒め殺して、改善させない。
君ら世の中へ出たらね。

叱って呉れる人間に感謝せよ。 褒める奴には、用心せよ。 本当の
悪人、言うものはね。 人を褒める。

褒めて褒めて褒め殺す。



叱る人は善人よ。 人物は小さいが、善人だ。 本当の悪人は、相手
を褒めるからね。 褒めて褒めて有頂天にさせといて、

それでもって相手を駄目にする。 こんな奴こそ、最大の悪人だ。



   *       *       *



ワシ、実の母に、駄目な子だ、駄目な子だと。 一千万回、言われな
がら生きて来た。

自分でも、つくづくと、根気の無い、弱い人間だと諦観してた。 と
ころがだ、白江との裁判で、自分への見方が一変した。



小松警察署・刑事課長の M に、出ても居ない家宅捜索令状にて、四時
間も吊るし上げられながら、屁( へ )とも思わなかった事で、

こんなにも強い人間だったのかと、我と我が心に驚嘆した。



市川氏の、死んでしまえの電話では、さながら、鋼鉄は如何に鍛えら
れたかを、地( じ )で行く気分だった。

正に、あれこそが、ワシの惰眠を醒( さま )す、鉄槌でこそあった。




有り難し、有り難し。 感謝、感謝、感謝である。 よくぞ鍛えて下
された。

世の中の事は、我以外、皆これ先生である。 良き教訓を有難う。
皆様に鍛えられて、今のワシが有るのです。

この第六章も有るのです。



   *       *       *



< 戸田志郎先生との対話 >


白江家との裁判の終了の翌日だ。 戸田会計の戸田志郎先生が、ワシ
の工場へ、真相を聞きに来られた事。

前のページに書いた。 これには後日談が有る。 概略を記す。



戸田先生、ワシの言い分を聞かれるや、ハハハッと笑われた。 白江
ユキ氏の言い分と正反対だと言うて、また笑われた。

戸田先生のさらなる質問に答えた後、ワシらは雑談に移った。 その
中でワシ。



先生の事務所に勤務の太田敏明氏が、奥さんと歩いてるのを、金沢に
て拝見したと申した。

ワシの何気ない、一言( ひとこと )に、戸田先生、にわかに表情を
変えられた。



そりゃ太田の女房では無い。 太田の女房はウチの事務所に来ていな
い。 第一、今、これだと言うて、戸田先生。

腹の大きい仕草を、された。



ワシてっきり、太田氏は、ご夫婦にて戸田会計事務所に勤務してるも
のと思ってたから、

思いも寄らぬ、やぶ蛇だった。 だからその場ではこの話題、直ぐに
中止した。



ただ戸田先生、この裏話を耳にされるや、魂が何処かへ飛んで行った
かの如く、さながら夢遊病者。

社員が、裏で何をしていようと、それは各自の勝手だ。 仕事さえし
て呉れれば、干渉しないと、苦し気につぶやかれた後、

やにわに、ふううと言う感じで立ち上がると、事務所を出て行かれた。



その姿が、余りにも奇怪だったから、先生を追うて玄関で見送りなが
ら、あっ気に取られてたものだ。

心、ここに在らずとは、あんなのを言うのだろう。



   *       *       *



問題は、その後である。 そうか夫婦じゃ無かったのか。 事務所で
並んで仕事してる、若い女だったのかと思い。

結構、調子良い事してるんだなと、思ってたのである。



ワシには、彼らと会う魂胆など全く無い。 なのに何故か、それから
も、やたらと会うのだ。

ある時は金沢の繁華街だった。 ある時は内灘の海水浴場だった。
太田氏、悠然たる姿で、戯( たわむ )れ付く同僚女と

歩いてた。




知らない人が見れば、夫婦に見える。 ワシも最初、夫婦だと思った。
事実を知れば、このチンポコ野郎メ、だ。




   *       *       *



その頃だ。 地元新聞のお目出た欄に、太田氏に女のお子さんの
出生が出た。

余談ながら氏は、この時の子を筆頭に、女の子ばかり、三名のお子さ
んを成されて居る。



身重の母ちゃんを家に置いといて。 テメ 〜 は勤務先の女と、いちゃ
付いとったのか?

ワシと会わなきゃ良いのに、まるでいじわるみたい。 金沢の街で、
海水浴場で、会う。 ワシ、向かっ腹が立って来た。



この不倫男メッ、ええ加減にしろッてんだッ



   *       *       *



太田の父は、太田吉祥氏と申す。 名前から判る様に、お坊さんだ。
ただし、ご自宅は我らと同じ普通の民家である。

お寺は持たない。 頼まれ坊主。



お葬式が有る。 お寺に行事が有る。 人手が足り無い、応援を頼む。
そんな時、坊主の衣装して駆け付けるのが、

この手の坊主だ。



ワシ過日、太田氏宅に電話した。 問題の若奥さんが出て、ちょっと
ドキッとした。

主人は外出してますと言うから。 そりゃ外出してますよ。 先程、
金沢の街にて、戸田会計で同僚の女と歩いてるの拝見したから。



これで在宅してりゃ、忍者です。 ただし、奥さんに旦那の不貞を言
うのも何なので、

お父さんの吉祥氏に出て貰い、事情を説明した。



   *       *       *



お父さんの太田吉祥氏、突然耳にする息子の不倫話に、驚くしか無い。
余りに突然で、返事が出来ない。

息子は外出中である。 帰宅したら、いの一番に問い糺( ただ )す。



貴殿の情報の如く、けしからん問題が息子に有れば、ただちに善処す
と言われたので、

ワシ、了解して電話を切った。




後に、この件を戸田志郎先生から聞けば、その翌日。 代理の方が戸
田会計に来て、

誠に申し訳ない。 責任を取り、退社させて貰いたいと言い。 その
様にしたそうである。




戸田夫人に依れば、太田氏と付き合ってた女事務員も、同時に、解雇
したそうである。

ワシ、これを聞きて、やや憤然とした。 まず太田吉祥氏の処置には
合点するが、問題は当事者の太田敏明である。



そんな退社せねばならん様な事、してたのなら。 自分で戸田会計へ
来て謝罪して、自分の手で辞表を出すべきである。

女と金沢の街を歩いてる時は、堂々として、悠然たる姿で歩いてたの
に、バレたが最後、顔も出さないとは、

何事であるかッ



代理人に頼んで、戸田会計へ行って貰ったのは、実に情け無いと、
ワシは思うのだ。

そんなもの、自分で行けッてんだよッ



   *       *       *



小松市は北陸である。 北陸と言えば浄土真宗の王国だ。 かっての
一向一揆の土地である。

小松の町を歩けば、浄土真宗のお寺が、いらかを並べて、至る所に点
在す。



そう言えば、この第六章に出る中谷紀子氏も、お寺の住職夫人である。
調停裁判の調停員役で、出演された方だ。

小松は、浄土真宗( 大谷派の )お寺だらけの土地なのだ。



   *       *       *



ワシ、この太田氏が、お寺の行事にて、僧の衣装を付け、稚児行列に
同道しとる姿を、目撃した事ある。

思わず怒り眼( まなこ )に、成って仕舞った。




君はまだ、責任を果たしておらんのだぞッ




と、心に叫んだ。 君は坊主の袈裟を着る前に、すべき事が有るだろ
にと、怒鳴り付けてやりたかった。

ちなみに太田氏、小松高校の卒業者名簿では、ワシの三級下である。
最もワシは中退だから記載されて無いが。



この問題は、なかなか深刻だ。 太田敏明は頼まれ坊主だろ。 ワシ
も年齢の関係で葬式が多い。

行った先の葬式に、太田が出てたら、どうしようかと考えると、気が
滅入る。



君にお経を読む資格が有るかッ   など、怒鳴り付けるか?
責任を取りて退社せねばならんよな事、すんなよ。

バレた場合も、代理人を頼んだりせず。 自分で行って責任を取れッ





バレましたかッ
ダハハハハッ



など言うて、笑いつつ。 頭など掻いとりゃええのだッ
責任を果たさぬ内は、坊主の袈裟を着る資格、君には無いぞ。

この文章に文句有れば、反論して来いッ



   *       *       *



< 戸田志郎先生の奥さんについて >



A 文書とは何かについては既に書いた。 裁判が和解で結審したのに
白江ユキ氏、ワシの悪口に励むから、

いちいち反論するのも面倒なんで、裁判の経緯など文書にしたのが、
いわゆる A 文書だ。



事務長の白江俊雄氏、A 文書に血相変えて立腹し、警察に名誉毀損で
訴えると、我が家に怒鳴り込んで来た事も書いた。

家には母しか居ない。 ワシは工場である。 文句有るなら工場に
こそ、怒鳴り込むべきでしょうに。



ワシ、広崎外科病院へ電話した。 白江さん、おかしいのと違( ちゃ
い )ますか?  工場へ来なさいよ。 ワシは工場ですよ。

言うと白江氏。 意味不明の言語を、ウワァアアアァ 〜 ッと並べて
電話ガチャ。



日を置いて、また電話した。 警察に名誉毀損で訴えるなら、早くし
て呉れと催促すると、

待ってろッ  と凄い声は勇ましかったが、待てど暮らせ
ど音沙汰無し。



ワシ小松警察署の刑事課へ電話して、どう成ってるか問い合わせた。
そしたら叱られた。

わし等は忙しいのじゃ。 そんなアホな電話、せんといてやッ
と、大目玉、喰らった。



   *       *       *



刑事さん、わめいて、いわく。 その白江何とか言う人が、君を名誉
毀損で親告に来たら、

真っ先に君に知らせるから、待ってて呉れ。 大体( だいたい )だ。
名誉毀損、言うのは、毀損された方が警察へ来る。



あんさんみたい、毀損した方が、どうなってますか、なんて電話して
来るの、聞いた事、無いッ。

警察は忙しいのだ。 君みたい変人の相手してる暇、有りまッせん
たいがいにして呉れと、お叱りを頂戴した。



ま、刑事さんの言う通りかも知れませんな。 以上が A 文書にまつ
わる記事の全てです。



   *       *       *



A 文書は、そのままここに出せば、こりゃ名誉毀損だ。 出して良い
部分のみ、書いておる。

また、その文書。 不特定多数に配布すれば、こりゃまた名誉毀損で
ある。  ワシが配布したのは、問題の当事者と、



白江ユキ氏に悪口を吹き込まれた者の内、ワシの耳まで届いた者だけ
に限定した配布である。

だから名誉毀損は成立しない。 むしろ悪口を言い回った白江ユキ氏
にこそ、この罪は成立する。



A 文書ではユキ氏も、警察へ訴えると言ったそうでだが、結局。
何事も起こらなかった。



   *       *       *



戸田志郎先生と奥さんは、当事者である。 戸田氏は裁判が結審した
際に、白江側の立会人として、和解書に署名してる。

当事者も当事者。 異論なき当事者である。 だから先生に A 文書を
見せても、名誉毀損罪は成立しない。



話が済んで雑談に移り、引責退社した太田敏明の事など話して居る
と、戸田夫人、こんな事を言った。

戸田会計では、社員のふしだら、絶対に許しません。 太田君も何で
すが、相手してた女の子も辞めて貰いました。



ウチはその点、堅い所ですから、そんないかがわしい真似は、断じて
許しません。

ふしだらした社員が居れば、すぐ首にしますと誇らし気におっしゃる
から、ワシ、反論した。



何をおっしゃる戸田夫人ッ  ワシは一年前に、旦那に教え
たのですよ。 太田と女が金沢の街を歩いてたって。

そしたら先生、仕事さえして呉れたら、社員同士が裏で何をしようと、
それは勝手だと、言うたのですよッ



ウチは堅い事務所だから、社員の不倫は絶対に許さないなんて、良く
言えたものですッ

ご夫婦で言ってる事、違うじゃ無いですかッ



   *       *       *



ワシがこう言うと、戸田夫人。 手を伸ばして旦那の膝を揺すり。
先生、そんな事、言ったのですか?

自分の亭主を先生と呼ぶのに、ちょい笑った。



戸田志郎氏、ニタニタと照れ笑い浮かべつつ、組んだ両の手をやたら
揉( もみ )しだき、俯( うつむ )いたまま返事せん。

ワシ先生に向かい、戸田先生、確かに先生は、そう言いましたぞ。
反論、出来まッか?

と重ねて問うたけど、何も言わなかった。



   *       *       *



だけど亭主が会計事務所の所長だと、人前で亭主を、先生と呼ぶので
しょうか?

あの広崎大三郎医師の奥さんだって、亭主を呼ぶ時は、あなたでした。
その後、機会有る毎に注意してますが、



公的な場所ならいざ知らず、内輪の歓談の場にて、旦那を先生と呼ぶ
奥方、居なかったですナ。

だいたい歯科医師の、このワシにしてからが、同級生からは君で呼ば
れるし、近所の連中からは、久治良さんである。



ま、ワシ、あんま先生っぽく無いからね。 昔は、いちいち文句言う
て、先生と呼ばせてましたが、最近は諦( あきらめ )てます。

邪魔臭いが表向きの理由ですが、やっぱ、何です。 金儲けして、
良い物喰って、ぽっちゃりしないと、

先生っぽく、見えないみたいです。



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さて、白江側との裁判の余波は、思いも掛けず、長期化しました。
この野郎と思う話題は、まだまだ残ってるし。

それが、面白いか面白くないかは知らねども。 ここで筆を置くのも
後悔の種に成りそうで、



マンガ家の赤塚富士夫じゃありませんが、書けるとこまで、書いて
やろうと思うのです。

よって、この手の話題。 次ページにも続くのだッ




ニャロメ、なのだッ









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