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第 二 章  2 / 6 

< 序曲 あらしの予感 パート2 >



< 授業としての英会話、理想の形態は、何か? >


カリフォルニアの様な、あちらの大学、卒業して、英語ペラペラの男から、

ワシみたい、お荷物、手荷物、足手まといまで、ピンからキリの学生、
一つの授業で括る(くくる)こと、合理的では無いが、だ。

括らにゃ、いけない、カリキュラムだからワシ、思うに、イギリス人の
授業のやり方、ありゃ、教科書会社の作ったカリキュラムだ。

大学、英会話の講師を探す時、教科書会社へ、聞くわけだ。
誰か良い人、居ませんか?


紹介されたイギリス人、当然、その会社の教科書、使う。
授業内容、設定されたもの。しかも子供向け。 これ実に、つまらん。

例えば、その中で、講師と学生、一対一の英会話。 クラス三十人だぜ。
一人三分でも、時間一杯の九十分になる。それだけで、お仕舞いだ。


当然、やっつけ、手抜き仕事。 一対一の会話なんて、止めろ!

こんな具合に、すべてが、チョトずつ。一応、何でも有る。
けど、何にも無い。 そんな授業、魅力的な、筈が無い。


ワシ、カリフォルニアに聞いたのだ。英会話が出来る様に成る、プロセス
は、どうか? 彼、アメリカでの経験、踏まえ、次の様に答えた。

最初の半年、アメリカ人の講師、何言ってんか、全く判らない。
でも半年経つと、言ってる意味、何と無く判って来る。まず、聞くことです。

どんどん聞いてると、ある時点から、何と無く、判って来る。 
時間掛るけど、それしか方法が無い。 ワシ、うなずいて、なるほど。


イギリス人の英会話、何でも有りの、立派なカリキュラム。 結局、
通り一遍、通過するだけで、お仕舞い。 同じ授業、一日四回だから

手抜きしないと、身が持たぬ。 当然、テープ多用。一対一の会話なんて、
意味有り気で、意味なし。 刺身のツマだ。 養分に乏しい。


このカリキュラム、何んとかしろと、ワシは、言いたい。


 *      *      *


ワシが英会話の講師なら、百二十名、大講義室へ入れて、半日、英語漬けに
したる。 最初の九十分、初級の英語。 一人漫才やらかして、おもしろ

可笑しく英語で話。 さて皆さん、あなたの歯科病院に、駆け込んだ患者、
どこを治してくれと、言っていますか? 答え、プリントに書け! てな、
具合。


二時限目は中上級コース。 だんだん難しくして行く。
英字新聞を読む。 マリナーズのイチロー、昨日の試合は、どうだった?

ヤンキースの松井、記者の質問に、なんて返事しましたか?
答え、英語で書いてみて。 こんな調子で、英語で話し、英語で聞く。


これを九十分、二回。 学生の頭、英語で、キンコンカンコンに成る。
一年経てば、英語を聞く耳、少しは進歩する、んでは、なかろうか?

こう言うアイデアが、大学、乏しい。 学生の態度に、嫌気差した英人、
三十分で授業、切り上げて、川角駅へ、スタスタは、詰まらん風景だ。


 *     *     *


アメリカで、ホームステイした子や、夏休み、ヒッチハイクで、北米大陸、
横断した学生。 彼ら、ラジオで英会話学び、相当なレベルに達した。

教室には、こんなんも、居たんよ。 何か、工夫が欲しかった。


ワシ、会話はあかん。 読むだけ。
図書館に英語の原書、結構、置いてある。 うちの大学より、坂戸の図書館。

一番面白かったのは、チャップリンの自伝(My autoglaphy)

大学の六年間で、三回、読んだ。 都合の悪い所、書いて無いのは何だが、
彼、57歳の時、18歳の娘と、三度目の結婚。


ワシ今、六十歳。とてもとても、そんな元気、御座いません。
二十九期には、お父さん、六十歳で、三十歳の方と結婚、そのお子さんが、

来とられる。 それ見て女の子、久治良さんも、がんばりなさい! は、
大きなお世話だ!  放っといて、くれ!



< 大学時代、ワシにも有った、酷いトラウマ >


大学の図書館だ。 また思い出す、心の傷。
入学して直ぐ、図書館へ行ったのだ。 ワシ、自慢じゃないが、人相
良い方では、無い。 受付の女の子、ワシ見て、すごい声で、どなるのよ。

何者です! ここは歯学部の図書館ですよ! 名前を、名乗りなさい!

ワシ、学生証、見せた。 きゃつら、顔、見合わせて言っとる。
アラ、この人、学生よ、だって。 ワシはいじけたぞ! これトラウマ。


さらにだ、五月、最初の健康診断だ。 心電図のコーナー。
看護士(婦) ワシ見て、どなるのよ。


なに寝ぼけてるのっ! 作業の人は、明日だって、掲示板に有るでしょッ!
ちゃんと見なきゃ、駄目でしょ! ワシ、無言で、受診表出した。

アラ? あなた学生さんなの? じゃあ、そこに寝て、心電図取るから、
だって。 ワシ、心の傷、深刻なトラウマ。


最後、川角駅の近く。 ワシ、自転車。 前を行くのは、ドクターこば、
やんけ。 やあっ先生、お帰りですかい? 先生、大げさに驚いて見せ、

うおっ、びっくりした。 新聞配達の、オッサンかと思った!
ワシ、トラウマ。 そろそろリベンジ(復讐)、考えな、あかん。



当然、深夜、ワラ人形、大学のケヤキ並木。 白鉢巻、キリリと巻しめ、
ローソク一本、おでこに挿し、五寸釘、カーン、カーン、うらめしや!

一度、したかった。 その時は守衛さん、大目に見てね。

江戸時代、これがメチャクチャ流行った(はやった)。

世の中、安定し過ぎて、膿んで(うんで)来ると、ワラ人形、カーン
カン。 しかしこれ、時代の変化する、予兆でも、ある。



< コンペ狂、本日もコンペ >


集まって、騒ぎたがる学生、どこにでも居る。
明海大、歯学部にも当然、居る。

入学した、その日から、仲間作って、コンペ。 卒業しても、まだコンペ。
コンペ、コンペ、何でもコンペ。 


コンペ男に、コンペ女。
なにしろ毎日が、コンペ。今日もコンペ、明日もコンペ。 時には、
授業を抜けて、コンペ。 コンペ狂の、コンペ中毒。


授業が終わり、外に出る。大学病院の前、女の子たち、待っている。
おいっ! コンペか? 女の子たち、白い歯みせて、うれし顔。

見てるそば、ごつい外車だ。男の子に女の子、押し入って、大騒ぎ。
これが楽しい。 コンペ、コンペだ! コンペに行くぞ!


そう言えば、アパート二階の先生、料理屋から、案内状が来ていたな。
先生、コンペ女だったのだ。 コンペ。
コンペコンペと言ってたら、ある時、男の子に、訂正を求められた。


あれは、コンペじゃなくて、単に、飲みに行ってる、だけですよ。
それを、コンペと言うんだよ。
そんな訳で、卒業写真、コンペの写真が、やたら、多い。

大学時代で、一番面白いのが、コンペ。
コンペは、大学の生活、そのものだ。 大学生の、命だよ。 コンペ。



< 序曲、あらしの予感 パート2 >


二年次、骨学実習だった。
三人で、一組。 頭蓋骨(本物)が三個、配当された。

頭蓋骨、一つは完全な物、一つは、少し痛んだ物。 最後の一つは、
頭蓋骨とは、とても言えない、ひどい物。 そろそろ、交換して欲しい物。


さて、実習の開始。真ん中に座ってた男の子、手を伸ばして、一番良いのを
引き寄せた。 その隣の女の子、次に良いのを、引き寄せた。

残るは、ひどい頭蓋骨。 ご丁寧にも男の子、それを取り上げ、
わしの前に置いた。 こりゃあんがと、ワシお礼を言った。


骨学実習は、二日間だ。
次の日も、最初の日と同じ、真ん中の男の子、一番良い頭蓋骨。

そして女の子、二番目に良い頭蓋骨、ワシの前へは、砕けた頭蓋骨。
久治良さん、これどうぞ。 男の子、照れ笑い浮かべながら。


諸君ら、こんな時、何を思うかね?
ワシ、ひとたびは呆れ、のち悲しんだ。 何を悲しんだか? と言うと、

この男の子、愛すべき男の子、なんだ。 いわゆる専務タイプ。
人と人を、つなぐ性格。 姓名判断でも、補佐役で大成しそうな、気配。


しかし、これでは台無し。ネンネ丸出しだ。 社会で一度でも、こんなマネ
してみろ、誰も、相手にしない。 ワシも、相手にしなかった。

常識なら、半日のローテーション。 順繰りに、良いの、悪いの、
回して使う。 それが、普通の感覚だろう。 


実習開始、三十分。 男の子も女の子も、根気無く、何処かへ消えた。
ワシ、一番良い頭蓋骨を引き寄せ、スケッチに余念が無い。

最初の一日で、課題を仕上げ、参考書など、眺めて居ると、男の子、
実習の終わり頃、帰って来て、やっつけで仕上げた。 雑な仕事だ。
彼、それをワシに見せ、言ったのだ。


久治良さん、ボクのスケッチ、なかなか上手いと、思いませんか?


ワシ、あんぐりとなって、しばし口が、利けなんだ。

こいつ、どこまでネンネなんじゃ。 そうだね、ううむ、確かに上手いな。
とは言っといたが・・・


 *     *     *


彼が、上の文を見れば、不愉快じゃろう。 しかしだ。 このネンネを克服
しないと君、人生において、何んにも出来んぞ。 五十面(ずら)下げて、
その辺、うろうろに成ってしまう。 事業は、人と人の、助け合いじゃ。

自分だけが、良い思いしてて、誰が付いて来る。 別に、犠牲的になれ、
とは、言うとらん。 普通に、フェアーに行けば、良いだけだ。
そんな事も判らん様では、何事も出来んぞ。 違うか?


  明海大歯学部、金持ちの、お坊ちゃま大学。 日本、育児の下手な国。
金持ち三代、続かず。 育児が下手なんで、続かない。

ここに書いた男の子、ワシには、犠牲者に、見える。 これでは、
三代どころか、二代でお仕舞いだ。


この点、アングロサクソンやユダヤは、資産を、何代も続かせる。
育児の、民族的なノーハウを持っておる。 日本、太閤(木下藤吉郎)の
子育てが、典型だ。 可愛がれば、良いと思っとる。 

我が二十九期、金持ちの親に、可愛がられ過ぎて、人生の曲がる人、
一人や二人では、無い。



< 歯科医は、全身疾患を、知らない >


ある教授だった。
君ら、知ってるかな? 歯医者が学校へ呼ばれて、検診、するだろ。

あの中に、口蓋裂(こうがいれつ: 口蓋の骨の癒合不全)の検査、
這入って無いんだぜ。


屈辱だよ、これ。
歯科医は、そこまで馬鹿にされてるんだ! 君ら、ボーッとしてないで、
屈辱だと、思えよ! まったく!


最近、歯科医師が研修の為に、口腔疾患、以外の患者の麻酔をした所、
歯科医師の許可範囲を、越えている、と言われ、書類送検された。

(札幌医科大) 歯科医師の口腔外科、上は耳鼻科に、文句言われる。
のどの奥、咽喉科に睨まれ、範囲、だんだん狭く、なりつつある。


君ら、口腔外科の手術、したいなら、医師の免許も、取った方が良い。
これを、ダブルライセンスと、言う。


ワシも歯学部を、この身で体験して見ると、歯科医師の口腔外科、何かの
関門が必要かな? 思わんでも無い。 口腔外科、言うのは、奇怪な外科
だ。 医師と歯科医師が、同等に仕事する場所、なんだ。

医師と歯科医師が、学生時代に習得する知識の量は、五対一だと、言われ
ておる。 だったら歯科医師に成って、口腔外科へ進むのが、五分の一の
簡単さだ。 医師の側から、文句の出るの、理の当然と、言える。


昔は、歯科医師出身の口腔外科医、医学部出身の口腔外科医と、まったく
同じ扱い。 腕の良し悪しが、勝負を決めた。 今、医師の側からの抗議
歯科医師出身の口腔外科医の範囲、狭めつつある。

ワシ思うに、口腔外科へ進みたい歯科医師には、何か別の試験、課すべき
かな? と考える。 学生時代、大した勉強もしなかったのが、ライセン
ス取って、口腔外科だ。


口腔外科へ行けば、抜歯から悪性腫瘍まで、全てして良い訳(わけ)だ。
  やっぱ何か、関門を設けるべきだ、とは、思わんか?


 *     *     *


卒業して、二ヶ月目だったかな? 他大学の教授、講演に来られた。
お仕舞いに、辛口の発言、残された。 学生、大学院へ進む。 学生のレ
ベル、余りにも低い。 高校生レベル。

卑しくも大学院だぜ。 国家が大学院、入学資格試験を、実施すべき。
合格者のみ、進学を許す。 そうしないと、低レベルの博士、巷(ちまた)
に氾濫す。


講演のあとだった。 ある古い先生、ニタニタとして、ワシに言った。
ウチの大学で、そんな資格試験、やらかしたら、まず誰も、合格せんね。
ワシもニタ付いて、同感を示した。

英語、数学、物理、化学。 高校で履修さえしなくても、立派に大学院、
取ってもらえます。 四年すれば博士にも、ちゃんと成れます。 むし
ろ学費、生活費の心配、有りますな。 貧乏人、お呼びでは、無い!


 *     *     *


大学時代、ワシ、何度となく学生に、あの子、どう思います? 
質問された。 答えは、いつも同じ。

あの子じゃ無しにボク、どうなりますか? と聞いてみろ。 教えるぞ。
すると男の子の大半、いえ結構です、エヘヘ、と逃げた。 


反対に女の子、あの子の事なんぞ、端(はな)から問いやせん。 この
差、おもろくは無いか? 女の子、例外なく聞く。 わたしの結婚運、
どうでしょうか?


 *     *     *


ワシの世代、男も女も年頃になれば、結婚したがるもんと、されていた。

ところがだ。 結婚が、眼中に無い子、今の時代、かなり多い。 自由に
生きる自由。 これ、経済的に豊かでないと、掛け声のみで、終る。


私大の歯学部へ来るよな女の子、見てると羨ましい。 親の財産を少しだ
け使って、人生を気ままに生きる。 歯科医師に成れば、もう、自立して
思いのまま、人生を楽しめる。 豊かさが、豊かさを産む見本だ。


 *     *     *


明海大歯学部二十九期、女の子は四十人だ。 すべて金持ちの子だ。

ワシらの常識と合う子、三分の二かな? この子達、普通に結婚しそう。
残りの三分の一、自由な生き方派と、結婚適合度の、高くない子。


見てると彼氏作るの大変で、結婚するの、もっと大変で、その結婚、維持
するの、不可能に近い女の子。 僅かながら居る。 どうしたら良いんだ
ろう? 聞かれても、ワシには、答えられない。


原因は、彼女らの心に有る。 彼女たち、それを認めないが、認めざる
を得ん時、婚期は既に過ぎておる。 お金持ちの、お嬢様育ち、問題を
内包し勝ち。

不幸にも彼女たち、素敵な子が多いんだな。 結婚に無関心なら、救われ
た。 なのに結婚したい。 彼、彼、彼が欲しい! こんな傾向の子、ス

トレス、凄いぜ。 しかも歯学部なんかに居ると、彼、医者か歯医者に限
定だから、いよいよ大変だ。


彼、彼、彼を求めて得られ無い姿、見てると、何とかして上げたいけど、
ワシに何が出来る? 二十台前半の、女の一番良い瞬間。 歯学部へ来て

本当に良かった子が居る一方で、歯学部なんかへ来たばかりに、女の人生
ゆがんでしまった子も、居ないわけでも無い。

要するに、女の子の一部、結婚的に育って無いんだ。 日本人の子育て、
どこかで、何かが欠けている。


ワシかって、犬のブリーダー(子犬の繁殖)した事、ある。子犬60匹、
出した。 諸君ら、知るか? 素人の育てた雄犬、繁殖犬に、成らない。

雌犬は、縛り付けても交配できる。 意欲の無い雄犬、どうしようも無い。
発情したメス犬の傍で、おろおろするだけ。 ため息が出る。


人間の男は女を、目で見て興奮する。 オス犬はメス犬の、発情した臭い
で興奮する。 ところが、素人の育てた犬、臭い嗅いでも、怯える(おび
える)だけ。 交尾、しようとせん。 あればっかしは、処置なしだ。 


これで判るように犬でさえ、交尾は本能では無い。 学習しなければな
らん、文化だ。 素人、小犬の自然な成長、妨げている。 同じように、

日本人、子供の成長、ゆがめてる。 金持ちの母親、暇が有るから、
子供をいじる。 それで特にあかん。


その犠牲者、金持ち大学に集約して、集まる。 明海大歯学部、やはり
金持ち大学。 金持ちの育児の犠牲者、男の子、女の子、まま散見される。
ワシここで、同じ説、再説する。 特に女の子だ。


その子が結婚したいなら、結婚運の最も強勢な年齢。 在学中でも、構わ
ん! 相手の紹介や、お見合いをさせ、婚約から結婚まで、進めていいの
だ! 本人、自分で探します。 何んて言っても、運命の傾向から、


自分では探せない子が、居るんじゃよ。 我が二十九期にも、素敵な彼、
探して見せますっ! ワシに啖呵切った子、居たが、どうだ? もう三十

歳だぞ。 どうしたんだ? 親は何をしとるんじゃ?


若さは、無鉄砲の代名詞かも。 無鉄砲だからこそ、世の中は前へ、進む。

だけど女の子が、彼、彼、彼と、明海大歯学部の、あの狭い範囲内で探し
回る姿。 あんま(余り)賢く、見えなかった。

その点、男の子は良いわな。 相手が何者でも、問題にされん。
文学部だろうが、はたまた高卒だろうが、好きなら結婚して良い。
歯学部の女の子、サラリーマンの彼、家に連れて来ようものなら、


お父さん、ちゃぶ台持ち上げて、娘の頭上に、たたき降ろしたりする。
これ、まずいぞなもし。 お父さんの意識、変える方が先かな?


 *     *     *


< 世代の違い、感覚の違い >


ここで、付け足しだ。 学生とワシ、感覚の合わん所、ひとつ書く。
在学中、何回も言われた。 あいつ、週末になると池袋、遊びまくってる。
久治良さん、どう思いますか?

この、どう思うか? には、非難する調子が、含まれておる。 悪い事し

とるのニュアンスが、有るんじゃよ。 彼はワシに、賛同を求めとる訳だ。
それに対するワシの答えは、こうじゃ。


彼らは若い。 二十代前半だ。 それこそ食前食後にマス、掻かにゃあ、

居れん年頃だ。 お上品な方々が、売春を廃止なされてから、こっち。
おのこの性欲、有らぬ方へ突出する事とは、あい成った。

この内、ワシが一番気に喰わんのは、まじめな素人娘を引っ掛ける連中だ。
遊びの感覚で、世間知らずの娘をターゲットにする。 こんなのは見てい
て、胸糞が悪くなる。


所がだ。 恋人の形でこれをすると、今の若い連中、非難しない。 正し
い行い(おこない)と判断される。 一方、取り敢えず彼女の居ない向き、

元気の捌け口を求めて週末、池袋辺りへ繰り出すと、いけない事、悪い事
をしとると、判断されるんじゃ。


これがワシには合点いかん。 六年間、夫婦と寸分(すんぷん)違わん生

活、しとりながら、卒業式でバイバイ、それぞれの人生へ行く。 ワシに
はこれが、どうしても、理解、不能だった。


幸いな事に、我が二十九期には、この手の事例、ほとんど無かった。 大
学全体でも、まあ、片手くらいのもの、なんだが、それが偉く目立つんだ
な。 ワシ、その一人と話、した事ある。

君、彼女とは卒業後、結婚かい? 彼は答えた。 結婚なんて、しません
よ! ワシ、何ぬう? 君らは確か、一年次の五月、連休以来の仲だろう。
そうです。 そうです? じゃ無いだろう!


六年間、夫婦と変わらん生活、しとりながら、何で結婚しないんだ! ち

ょっと待って下さい。 そんな、怒らないで下さい。 彼女には彼女の人
生が有るんだし、ボクにはボクの人生ですから、それぞれが、それぞれの

人生で、良いじゃないですか? 彼女の人生をボクが変えたら、駄目です
よ。 それじゃあ、君らの六年間は、一体、何んだ? さああ、よく判り
ませんけど、お互い、楽しかったんだから、それで、良いじゃ無いですか?


ワシ、割り切れん気持ちで、彼の実習の完了印を押した。 恋人の形だと、
まるで正しい行為みたいに、評価されるんじゃよ。 六年間だぜ。 男は
良いわな。 おちんちんが磨り減って、細く成る、わけでも無し。

だけど女は身体、変わっちまうぜ。 結婚して別れた者を、バツいちと言

うなら、こんなのは、ペケいち、とでも言わにゃ、なるめえ。 どう考え
てもワシ、非難のひとつも、浴びせてやりたい。


ましてや相手を、次々と替えた者に措いて(おいて)をや、 だ!


若い連中、非難の感覚、まったく無くて、むしろ、美しい青春の一こまの

感じ。 そして週末の池袋、いけない事、なんだ。 ワシはむしろ、池袋
で性欲、発散しとった連中の方が、なんぼか、健全に思えるんだがなあ。

諸君らは、これを、どう思う? あっ、そうだ。 売春を禁止するより先
に、若い男の性欲、低下させるのが、先だと、思うけどな。 性欲がその
ままで、突撃先を消しちゃうから、おかしく成るんだよ。


 *     *     *


石原裕次郎、青春時代は湘南で、遊び捲(ま)くったが、素人娘には絶対
、手を出さなかった。 まじめに彼を好きになった娘には、ワザとむごく
当り、家に帰したそうな。

そう言う倫理が、有ったんよ。 あこがれて近ずく娘には、手を出さない!

これに反する男は、汚ねえ野郎と、鉄拳を見舞ったそうな。 ワシも裕次
郎と、同世代だから、まじめな女の子相手に、性欲の処理しとる奴を見る
と、良い気持ち、せんだな。


売春の防止なんて、出来やせん! アメリカの禁酒法と同じさ。 犬に、
ワンと鳴くな! と言うようなもんさ。 要は若者に、如何に上手く青春

を通過させ、エネルギーを発散させつつ、なおかつ、価値的にするか?
だろう?


 *     *     *


金持ち、三代続かずは、法則では無い。 日本人の育児に、何かが欠けて
いる。 その反映だ。 わが歯学部、ほぼ全員、金持ちの二代目。

つまり、衰微の影の兆す(きざす)学生、多くなる道理だ。
さらなる発展こそ、あらま欲しきものを。 では、どうすれば、良いの
か?


この答え、口で言うのは簡単じゃが、実行は、至難の技(わざ)。
やっぱ金持ち、三代で終るんかな?

ヒントだけで申し訳ないが、我が雑誌、くじらの仲間の、英才教育の時代
で、少しだけ書いといた。 興味をもたれた方は、覘いてくれ。


 *      *      *


次の段、いよいよ吹き荒れる嵐を、別の角度から、眺めて見る。
ワシの考え方、必ずしも正しく無いかも。 用心しつつ、書いて行く。



*      *      *



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