* 裏本 五十歳、歯学部へ行く。( 体験記・医療系 ) * * *   < kujila-books ホームへ帰る >

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 人生に免疫力無き方、読む事なりまッせん

第 3 章 * 2 / 12
明海大歯学部・問題教授列伝
< 嶋田淳教授 坂下英明教授 >



両教授は、日本を代表するよな、
口腔外科の名手でこそあれ、

共に本学五期の同期。
学生時代からのライバルと来りゃあ、
何事に付けて、
互いに意識しますがな。

ましてや同じ口腔外科の同じ診療室。
日々袖摺り合いつつ肩意地など張りて、
静かなる火花、散らす毎日でやんす。

かっての巨人軍、王,長島の競り合いですな。
患者から見れば、真(まこと)に頼もしき、
両教授ではありますが、

本日のわたくし 久治良、
患者では無く、学生の目から見た両教授を、
一刀両断にて解剖、いたす所存でごわんす。

かの大ナポレオンでさえ奥さんから見れば
只(ただ)の人でした。
両教授は如何でありましょうや。
乞うご期待でやんす。

副題が扇動的です。
嶋田淳教授と坂下英明教授の何が問題なのか?
です。 では行きますぞ。


*     *     *




< まず口外第二・坂下英明教授を見る。>


故山本美郎歯学部長は死の三ヶ月前、ワシに向かいて、かく言うた。
  坂下先生は大した者だ。 現役の口腔外科医としての彼は、日本で
三本指に入るだろ。 とボクは見とる。



ワシ驚きて、あの坂下先生が、そんなに凄いのですかと聞くと、
モッサン、ううむと頷(うなずき)あの先生は、

口腔領域のあらゆる疾患に、現在の日本医学の最高水準で対応出来る
腕と経験を持ってるよと、申すのでした。



ボクが寿命を縮めながらも彼を教授に取ったのは、その技量を、何と
しても、明海大歯学部のものにしたかったからだよ。

教授会で、一度は鈴木正二助教授の教授昇格が決まったのを、ボクは
覆(くつがえし)て坂下センセを呼んだのだ。



みんなが言う様に横紙破りでは無く。 怨念人事でも、まったく無く。
あくまで坂下先生の、日本で屈指の、あの口腔外科医としての技量を、

我が大学に入れたかったから、それだけだよ。 ボクと鈴木先生の
前任の、藤田訓也教授との色んな軋轢(あつれき)も、



そりゃ有ったろうが、坂下英明先生を教授に取ったのは、あくまで
我が大学の口腔外科の、

水準を上げたい一心からだ。 ま、いろんな人が色んな事を言う
だろうけどね。

ボクの真意はそこだと思って欲しい。



   *       *       *



と、ここまでは、それなりの内容ですが、ここでモッサン、やおら
手を伸ばし、

ワシが卓上に置いたパナソの小型録音機のスイッチを切りて、オフ
レコを宣しつつ、以下の言葉を述べられたのである。



オフレコを書くとは何事かと言われそうだが、これを書かなきゃ
面白くねえだろ。

モッサンはここから、坂下英明教授への御悪口を吐かれた、ので
ある。



だけどこれが悪口に該当するや否やは、議論の余地、有る。 諸君ら
各自で判断願いたし。



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モッサンいわく、坂下先生の、口腔外科医としての力量は、文句の
付けようが無い。

彼ひとりで、我らその他全部の先生の症例を合算したより多くの癌
患者の手術、しとるからね。 その点では、こっちの負けよ。



でもな、坂下先生の弟子の育成法に、ボク、文句言いたいのだ。
ウチの口腔外科の診療室を見たろう。

働いてるのは我ら第一口外のセンセばかりだ。 坂下先生の第二口外
のセンセ方は、一体何処で何をしてるのかね?



病理の教室で顕微鏡を覗いとるぞ。 あんな事させて、あのセンセ方
が、一人前の口腔外科医に成れると思うか?

坂下先生は、二言目(ふたことめ)には、手術なんて何時でも出来る
と言うが、



ホントにあれで出来る様に成るのかね? 十年後に、あらゆる口腔
疾患に縦横無尽に対応出来る、

そんな先生が輩出するのかね?



ボクねえ、一度、坂下先生に直(じか)に、この件で話した事、有る
のだ。 だけど会話、成立しなかった。

坂下先生は大丈夫と言う。 これが最良の弟子育成法だと主張して、
話に成らん。



十年後、坂下英明教授の口腔外科第二から、ホントに、坂下先生が
言う様に、

優秀な口腔外科医が続々と出るかどうか。 見せて貰(もら)おう
じゃないか。



ホントに大丈夫かな?  ボクは駄目だと見てるんだがね。 と
山本美郎歯学部長は言われた。



   *       *       *



坂下英明教授の講義は、表本(おもてほん)にも出した如く、我が
歯学部の秀逸である。 これワシが保証する。

講義のみにて比較すれば、モッサンの後継者たる嶋田淳教授に五馬身
の差で、断トツ、坂下英明教授の独走である。



   *       *       *



弟子育成に付きては、モッサン。 自身の後継たる嶋田教授にも
辛(からい)点を付けていたそうである。

これは後日、物部君から聞いたのだが、嶋田先生の弟子の育て方は
まだまだ手ぬるいと苦言を呈されたそうである。



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この弟子の育て方では、ワシの実体験からの感想を述べる。

それは新卒の先生が、開業歯科医院へ行く場合だ。 治療の腕の良い
先生が、教え方も上手いとは限らないと言うこと。



その開業歯科医が弟子の育成法も上手いかどうかを見分ける方法の
ひとつは、過去、

その歯科医院から何名の先生が、独立開業したかを数える方法だ。
教え方の上手い先生からは、一人前に成りて開業する歯科医が

陸続(りくぞく)である。



一方、口では教える教えると言いながら実際は何も教えない先生が、
この世には結構、ご座る。

新米歯科医が必要とする肝心の基礎的事項を何も教えず、関係の薄い
差し当たりどうでも良い事を、やたら教えたがる。



そんな指導歯科医が、かなり居るのだと言う事を心に置くべしと、
ワシは言う。

新卒の先生よ。 用心すべし用心すべし。



   *       *       *



十年、二十年のスタンスにて、どんなレベルの歯科医師を、その先生
が、世に送り出したかを数うれば、

議論は無用だ。 事実が、その指導医の弟子の育て方の良否を物語る
のである。

名医、必ずしも名指導医では無い。



ワシが卒後最初に師事した先生は本学五期だから、このページの
嶋田坂下両教授と同期だ。

その先生こそ、残念ながら、この手の良く無い指導歯科医だった。
新卒の先生の行くべき所にあらずと、ワシ、断言す。



だいたいこの先生、息子がニートしとるやないか。 息子の姿からも
新卒の先生は、行っていけない。

息子みたいにされるぞ。



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弟子の育て方では、坂下英明教授は比較的に、嶋田淳教授に劣る。



かと言うて、嶋田淳教授が、それ程の弟子育成の名手でも無いと、
モッサンは言うた。

これらの議論は不用である。 十年二十年先に、事実が判定して
くれる。



我ら、それを見て、なるほどと思えば良いのである。



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< 口外の戦略を巡るモッサンと坂下英明教授の論争 >



さらにモッサン、歯学部口腔外科の進路について、こんな話をワシ
にした。

坂下英明教授は自身の配下の口腔外科第二を、癌治療の方向に指導
したいとの希望を、モッサンに表明したらしい。



モッサン、不賛成を言うた。 だってね君、我々は歯科医師だよ。
歯科医師が医師と張り合うて癌を追求して見ても、

勝てる筈が無い。 歯科医師の領分を見たまえ。 上へ行けば眼底に
ぶつかる。 下は鎖骨で行き止まりだ。



奥を追求して咽頭に触れれば、耳鼻科の医師に文句言われるし、
こんな具合に我ら歯科医師は、制限された範囲内で仕事する。

こんな縛られた状態で医者と張り合うても、勝てる道理、無いだろ。



我ら歯科医師が医師に勝つ方法は、噛み合わせだよ。 咬合を絡めて
仕事しないと絶対、医者には勝てない。

ボクは坂下英明教授に、それを言うたのだが、先生、聞こうとしない。
今の坂下先生の第二口外(こうげ)は、



その勝てもしない癌を追求して顕微鏡を覗いとる。 あれじゃあ
駄目だよと言ってるのだが、

坂下先生、かって金沢中央病院の口外の医長だったから、口腔領域の
癌治療を毎日毎日、嫌と言う程、経験されたのは判る。



その想い出から脱出、出来んらしい。 坂下先生は、それでも良い
かも知れぬ。 だがな、

そんな感覚の教授の指導を受ける先生方は、たまったものじゃ無い
と思うが、どうだろ?



十年後、二十年後に、坂下英明教授は弟子から、ありがとうを言われ
るだろか?

ボクは、そう成らないと思うがね。 久治良さんはどう思う?



   *       *       *



山本美郎歯学部長にすれば、寿命を縮めてまでして坂下英明先生を、
教授に取って上げたの思いが有る。

その恩義が有る筈なのに、坂下英明教授、とかく、モッサンには、
逆(さから)い気味だった。



忘恩の輩(やから)の語は、いささかきついが、やっぱ惻隠の情が
あらま、欲しかったと書いて終わる。



   *       *       *



弟子の教育に付いての勝負は、事実が判定するだろ。 坂下英明教授
と嶋田淳教授は同期である。

同じ年に定年す。 その時に、自分の後を継げる優秀な口腔外科医が、
育っておるのか居ないのか。

ごちゃごちゃ言わずとも、事実が物語るだろ。



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以下はワシの独断と偏見の、教授通信簿である。 評価は、
優秀・優良・優・良上・良 の五段階である。



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○ 学生への講義のレベル ○


嶋田淳教授  ・ 優中
坂下英明教授 ・ 優秀上


○ 弟子育成能力 ○


嶋田淳教授  ・ 優良
坂下英明教授 ・ 良


○ 臨床技能的能力 ○


嶋田淳教授  ・ 優秀(手技は本学一と、ワシは見る)
坂下英明教授 ・ 優秀(ご本人が言う如く努力と経験の人)


○ 研究者としてのレベル ○


嶋田淳教授  ・ 不明(つまびらとせず)
坂下英明教授 ・ 不明(つまびらとせず)



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< 嶋田淳教授の寸評 >



嶋田淳教授の愛称が、明海大歯(は)の美空ひばり。 又は、丸金
嶋田と申す。 略すれば嶋金(しまきん)に成る。

我らが臨床実習にて第二口外へ行った折、教授、冗談半分に、竹島
浩先生は資格を沢山持ってます。



それじゃあボクは、何を沢山持ってるかと言うと、お金を沢山持って
ますと駄洒落て、我らを笑わせたが、

それ冗談に有らず。



嶋金の生地は、埼玉県川越市だ。 東京から川越に向けて国道254号
線を北上してくれ。

川越の町並みを左手に見る頃、宮元町交差点がある。 この交差点の
四隅(よすみ)を眺むれば、それぞれの角に、



歯科医院と食堂がふたつ。 残りはガソリンスタンドと成って居る。
これ全部、丸金嶋田の持ち物だ。

毎月末、ご集金だそうである。 我ら強奪したし。



   *       *       *



嶋田淳教授の腕の凄さは、臨床実習で拝見した。 ワシも根が職人
だから、腕の良し悪しが体感できる。

嶋金、上手いなあ。 手術の名手である。 明海大歯学部の付属病院
で、一番腕の良いのは誰かと言うと、



衛生学の松本勝先生に依れば、クラブリの岡本和彦先生だそうだ。
だがワシは、この嶋金こそ、トップじゃなかろかと、

見るのだが、どうだろ。



嶋金と坂下先生との手術力の比較は、ジャイアント馬場とアントニオ
猪木の、どっちが強いかと同じ質問であって、

どっちもチャンピオンなんである。 それで良いのだ。



   *       *       *



嶋金の奥さんは、かの有名な民主党から参議院選当選一回の、嶋田
ちや子先生である。 ちや子は智哉子と書く。

我が明海大歯学部の19期だ。 ちなみに旦那が五期だから、つまる
ところ後輩なんよ。



埼玉県の方なら選挙ポスターにて、ちや子先生の面(ツラ)、
ご存知だろ。

NHKのアナウンサーに在籍の前歴から言うても、もともとの美人
なれど、あのポスター、デジタルの絶対的修正版だと、



口の悪い先生方がワシに言うのだが、テメーの母ちゃんより別嬪は、
間違い無し。

あのポスター、かなり持ち去られたと言うが、ワシは、つまびらか
とせぬ。



   *       *       *



丸金嶋田(淳)教授の金満家振りは次の一事にて知れる。 つまり
新築、移転先のご住所が、東京都渋谷区松濤と来りゃあ、

それ以上、何を言えば良い? 文句ある仁は教授の近所に家を建て
れば、それで良ろし。



日本に数台しか無いと言うドイツ車をころがし。 平均時速200
キロ超にて関越道を通勤なさる。

ある日の講義にて嶋金、オープンカーってえのは、夏、足元に蚊取り
線香を置かないと蚊に喰われると、のたまわれた。



そんなのは我らには何の役にも立たぬ情報だ。 勝手にして呉れと
言うとく。 

その他、丸金嶋田に関した情報は、表本(おもてほん)にギョーサン
書いといたから、暇な時にでも眺めて呉れ。



丸金嶋田の講義で駄目なのは、神聖なる講義の最中に、しばしば
テメ〜の私生活に言及する事だ。

先日家族で箱根の強羅温泉へ行きましたなんて、歯学と何の関係が
有るのだ?



強羅だろうが熱海だろうが、行きたきゃ勝手に行けば良いのだ。
講義の最中に言うなよ。

嶋金、この手の最悪は、例の、A子君は美人だ発言だろ。 丸金が
講義の最中に、かくなるロクデモ無き発言をしたものだから、



その後のしばらくは、A子が美人かどうかの議論が、かまびすし
かった。 ちなみにモッサン、

わしは、あんな女、美人と思わん。



ワシの意見なら、A子の美は個性美である。 あの手の個性的な美は、
バランスが崩れると悲惨である。

ワシの見る所、二年時の終わり、三年時の始め、A子の顔のバランス
が危うく成り始めたと見る。



だけど講義の最中に、A子君は美人だね発言は、罰金ものである。
教授の講義レベルを下げた由縁である。



***************************************************************



< 坂下英明教授を寸評す >



ワシは教授の手術を、真横に立ちて見学した。 大変に丁寧である。
特に手術時間の大半を、フィニッシュに使う。

つまり患者の顔面に、手術の跡が残らない様に、どうかと思う程の
手間を掛ける。



ここへ手間を惜しまないのが、のちのちに患者から喜ばれる秘訣なん
だよと、我らに向いて言われた。

口腔領域の癌等の難手術の症例が、モッサンを含めた我が明海大歯の
全手術症例より多い事は、既に書いた。



だけんども、教授の手術の技量は認めるが、その弟子の育成法には、
モッサンと共に、ワシも又、

一抹(いちまつ)の疑問を呈したい。 あれでは結局、名医・坂下
英明教授と、その他大勢の先生方で終るだろ。



   *       *       *



日本での教授は、その講座の独裁者である。 スターリン、金日成、
金正日並みの独裁権がある。

と言う事は、その教授の潜在意識の形に、その講座が成り終わるって
事だ。 だから新任の教授を選ぶと言う事は、



その講座の未来の姿は、その教授の潜在意識の形に、表現されると
言う事だ。

ワシ、短期間ながら、色んな大学の、色んな新任教授の選び方を拝見
して、新任教授の選定も大切なれど、



新任教授を選定する側の人間の見識も、厳密に問わないと、大学の形
が歪んでしまうと感じた。

その辺の吟味が、されていない気がする。 つまり教授を選任する
教授の選抜だ。



   *       *       *



また新任教授に、講座内の全権を付与して良いのかとも思う。 だけ
ど、教授の権限に制限を加え、介入するにしても、

言うのは易しが、実行は難である。 となれば、講座はやはり、
教授の全裁量の独裁にて、形成される。



すればこそ新教授の選定には、非常なる注意を求めたい。



   *       *       *



坂下英明教授の講義は素晴らしいの一語に尽きる。 情報量の多さ。
講義のスタイル。 文句無しである。

つまり坂下教授は、手術と講義の名手である。 だけんども弟子の
育成能力は、かなり劣る。



   *       *       *



この口腔外科第二の坂下英明教授と、前章に書いた、学外から歯内
療法学の教授をしとるよな形の、

開業歯科医、高見英行先生と、その横顔を並べて見て欲しい。
鼻相が同じだ。



この両先生の共通項は、ご本人、名医なれど、その弟子は先生に、
遥(はるか)に及ばないって事かな?

弟子の育て方、共通して、いまいちの感を拭(ぬぐ)えない点が
共通と見える。



両先生から反論が来れば、ここに付加す。



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