*  自分史 製造業系 ( 五十歳までのワシ。 鉄工所三十二年間の想ひ出 )  *   < kujila-books ホームへ帰る >

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第 1 章  *  9 / 11 

< 乗っ取って下さい お願いした二代目社長。>



経営は順調だし借金も無い。
なのに何故、志願までして乗っ取られんだよ?
それはね。二代目だからさ。
二代目の坊ちゃん社長だからさ。

とうちゃんみたい器量、無いからだよッ


*     *     *





< 乗っ取られを志願した、二代目社長。 >


死去された A 社の創業社長、偉大だった。 裸一貫、事業を始め、現在の大を
成された方である。

小松市商工会議所の会頭も勤められ、市内鉄工業界の発展に尽力された。
葬儀も、盛大でしてな。 こんな偉人を父に持つと、息子は苦労する。


ナポレオンは二代、続かない。 親が偉大だと息子は××と相場が決っておる。
仕方ねえんだよ。 それが、世の中ってえ、ものなんだよ。

ねえちゃん


 *       *       *


それで息子、何をしたか? と言うとだな。 てて親の、四十九日も済まぬ
内に、だ。 コマツへ行ってだ。

ウチの会社、乗っ取って下さい。 お願いします。 言うてな。 金庫の鍵と
会社の帳面。 差し出して来たんじゃよ。


コマツ、嬉しく て嬉しく て、忍び笑いをしたか? どうか? は、知らねども。
超優良会社、労せずしてコマツの傘下に入ったんじゃ。

向うが乗っ取って呉れ、言うんだもの。 コマツは、ああ、そうですか。
言う外( ほか )ないわなあ。 すると、その会社、どう成るの?



どうなるかって?

コマツの社員が、ドドーッと無遠慮に侵入して来るんじゃよ。
それだけさ。


 *       *       *


誰が侵入しようと、社長さんだけは、良いんだよ。

年収二千万。 その辺をうろついてて下さい。 他は、こっちでしますから。
言われてな。 その辺をうろついてれば、あとはどう成ろうと、

きゃあなろたいっ ( 知った事じゃないっ って事です )



問題は、創業以来の古参社員だよ。

古参でも、現場で機械使ってるの、まだ良いよ。 出世して管理職になった
連中が困るんじゃ。



その椅子、コマツから来たボクが座ります。 この会社、コマツのものに成り
ましたから、あなたは、どっかへ行って下さい。

言われるんよ。 どうする? そんなセリフ、かまされたら?
堪まんねえよ。


工場長になって、定年まで、あと残り三年で、これを言われてみろッ
どうすれば良いか? 判らなく なる。

目の前、真っ黒だ。



 *       *       *



当然、抵抗するわな。 無駄とは知りつつも。

この会社は、なああ。 わし等が先代社長と一緒になって、ここまでに、したん
だよッ  あっちへ行けだと? 誰に向かって言ってるんだッ


だけど駄目。 多勢に無勢だ。 コマツからは大軍勢が、次から次へと繰り出
して来るのだ。

次の日になると、見た事もねえのが自分の椅子に座って、帳面だろ。 又もや、
あっちへ行けと言われる。 情け無く なる。 声は枯れ、涙も枯れ果てる。



そんな方でワシの工場へも来られたのが、ありました。 もう一切合切。
糞味噌に、こき降ろして行かれましたが、

手遅れです。 その方は、辞表を叩き付けて来たんですな。
待ってましたッ なんて言われたりして ・・・・


実際、困りますなあ。 二代目の社長さん。 おやじの真似。 オレには無理
  と観念された上での行動でしょうが、

古参の幹部社員、大迷惑です。



 *       *       *



でもこれ、世間で言う、乗っ取りじゃあ、有りませんよね。
A 社が、その後、どうなったか? と言いますとね。


業績は拡大。 新分野へは進出。 海外へも発展して。 いやはや、凄いもの
です

おやじの代に、電気関係の技術が深化してましたんで、それも活用。 押しも
押されもしない大成功の会社です。 社長は帽子みたいに乗っかってただけ。


二代目の坊ちゃん社長ですから、この方が良いのかも知れません。 創業社長な
ら、考えもしない行動も、二代目なら許される。

むしろ奨励されたりして。 最近は会社の好業績に押されて、坊ちゃん社長。
経営がどうの、時代がどうのと、ご発言のようですが、



お止めなさい。 大人しく 帽子に成ってなさい。 と鑑定学は申しております。



可哀相なのは、古参の幹部社員です。 自棄酒(やけざけ)です
その心中、こころより、心より、お察し申し上げます。



 *       *       *



傘下に入って、基本的な安定を得て、新分野へ打って出る。 乗っ取られる
のも、悪くないんですよ。

過保護された人間が、人口の大部分になる、これからの日本。 傘下に入った
気分は、お母さんの羊水に浮かんでる気分と、同じかも知れません。


ただ一つ、ワシが、ここで文句言いたいのは、傘下になった企業との関係です。
取引に隠された、甘さ、です。

親会社と資本的に一体の会社は、企業内の企業家の、住み易い環境でも
あるんです。 つまりネコババのチャンスが多く なるって事です。



その辺の監視体制を、頼みますよ



でもね、これ、根治は不可能だ。 だってさあ。 社長だってネコババしてんだ
もの。 雇われ社長なら、いよいよ熱心ですからね。

コマツの社長だって、内職してない保証、無いんだぜ。 関連会社、数社の社長を
兼務だなんて、これがもう既に、企業内企業活動だったりしてね。

要は、程度もんですッ



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次の段では、社長では無いが、それに近い方の、企業内企業家ぶり。
書いてみます。

ワシがこの目で見、この耳で聞いた事例です。





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