*  自分史 製造業系 ( 五十歳までのワシ。 鉄工所三十二年間の想ひ出 )  *   < kujila-books ホームへ帰る >

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第 2 章  *  久治良家の遺産相続戦争

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<久治良家の汚点.それはN家廃絶の罪だ>





N 家には子供が無かった。
親籍だった我が祖父久治良伊義、
男が五名、女が一名。六名もの子があった。
よって N 家はひとり、養子に貰ったのだ。

その時祖父伊義、なぜか女の子を養子とした。
それが味噌の付き始めだった。



*     *     *





< 久治良家の罪は、取り返せる罪だ。>


問題は、そこである。 男の子が五名だ。 その中の一人に N 家を継がせれば、
万事めでたく 済んだのだ。

それを伊義、何を考えたのか? 一人しか居ない女の子に N 家を継がせた。
女の子、年頃になれば、当然、結婚する。


相手の男性、名前を変えるの嫌です ・・・ で N 家は断絶し、廃家となった。
この時、祖父も祖母も、生きてたのである。

なぜこの時、誰かを養子にして、N 家の存続を考えなかったのか?



今の時点で N 家を再興させるには、叔母に一秒間。 書類上での離婚が必要と
なる。 離婚して、N 家に戻る。

そこへ誰かを養子に取り、N 家を継がせる。 一秒後、同じ人と再婚する。
これしか、手が無いそうだ。 ワシ、小松市役所の戸籍課に聞いたのだ。



 *       *       *



N 家、貧乏人だったら良かった。 相当の財産が有ったのだ。 我が祖父伊義、
その財産。 自分の財産と一緒にして、

さながら、自分の財産であったかの如く、扱った。



ワシ、大阪の次郎叔父 ( 土田義雄 ) に言った事がある。 これ、まずいのと
違う?  今頃、ウチの爺さんと婆さん、

あの世で、N 一族に、追い回され、袋叩きに、されてるぜ。



するとだ。 ずけずけ言うのが身上の次郎叔父。 口ごもって、言わんのだ。
まああ、そうだろうなあ ・・・ 殴られてるだろうなああ、だってよ。

ワシ、ムコ養子に行った三郎叔父 ( 島隆三 ) にも、同じ事を言った。
すると三郎叔父、へたへたと笑った。



まあ 〜 そうだろうなあ。 殴られてるだろうなあ。 でもね、世間には、
その手の話、多いのだ。

いるか君も、いちいち気にしない様に ・・・ だとさ。



そこでワシ、当事者の叔母に、この話をした。 するとだ。 叔母、物凄い
怒りムキ出しの、野獣じみた声で、



不愉快ですッ
その話は、二度としないでッ

今度したら、許さないからねッ



あんな恐ろしい声、どこから出したのか? 今だに耳に残る。



 *       *       *



ここでワシ、書かねばならぬ。 この叔母 ( 彰子 ) ワシをつかまえて、ボク
ボク。 言いやがるのだ。

それ、止めてんか 五十面(ごじゅうずら)提(さ)げたオッサンに、
ボクは無いでしょう。



自分が嫌な事だと、二度と言うなと野獣じみた声を出すなら、他人様を侮辱して
良い道理。 無いと思うがね。

ワシが、こう言っておるのに、次に会うと、又してもボク、ボクだ。



叔母は笑い ・・・ だってさ、あなたが生まれた時から知ってるから、どう
してもボク、ボクって、言ってしまうのよ。

ワシが何度抗議しようと、常にボク、ボクだ。 ワシ、ついに怒鳴り付けた。



今度、ワシを、ボクと呼べば、殴るからなッ


それを憶 ( おぼ ) えとけッ ・・・ ってね。



 *       *       *



まあね。 こんな感覚の女なればこそ。 財産を取りながら、その家を絶家にし
て、何も感じないのでしょう。

ワシだったら、気味悪い。 N 家の怨念、たたりが、有りますよ。
諸君、これを、どう思う?



こんな叔母だから、次に会えば必ずワシを、ボクと呼ぶ。 するとワシ、叔母を
殴らにゃあ、いかん。

そうならない為に、ワシは、彼女の一人息子に手紙を出し、用心を喚起した。
叔母の旦那にも、親書を送り、用心する様に頼んどいた。



だけど、ワシが殴らねば、ならぬ場面。 何と無く来そうな気配なのだ。
それを防ぐ手立ては、ただひとつ。

叔母と会わぬ事である。 用心している。 だが、叔母。 用心してても駄目な
女でね。 他人の家へ、挨拶も無く上がり込む様な女なのだ。



こりゃあ、ひょっとすると、ワシ。 叔母をポカリで、テレビに出るかも知れん。
用心するに越した事は無い。




N 家の廃絶は、取り返しの付く罪(つみ)である。 我が久治良家、是非とも
取り返したい罪だ。 叔母が死ねば不能となる。 猶予は無い。

とにかく全財産を取りながら、その家を断絶させちゃあ、いかんぞなもし。
たたりが有ら 〜 な。



 *       *       *



伊三次郎、伊義、伊一と続いた我が久治良家 ( 土田家 ) も、四代目のワシで、
伊の字が抜けて、公平と成った。

死んだ兄は、勲( いさお )だった。 名前で明らかな様に、家の命運が屈折し
てる。 不思議じゃないか?



あれはワシが、十一歳( 小五年生 )の時だった。 父の名は、伊一である。
ワシの名が、伊平なら判る。

何故、公平と付けたのか? 母に聞いた事がある。 母、いわく。


わたし、お父さんとは結婚したくなかったの。 近所にステキな人が居て、わたし
憧(あこが)れてたの。

その人の名が、公平だったのよ。 それであなたに 公平と付けたの。



聞いたワシ。 子供ながら、ゾ 〜 ッ となってね。 ワシャ 〜、精神的不倫の
子じゃ

ワシは、精神的不倫の子なんだッ



 *       *       *



それ以来、公平と呼ばれると、身が縮む。 ワシ、実に十一歳で、自分の名前、
公平と書くのを止めた。

改名して 興平と名乗った。 読み方も、こうへい、ではなく おきへい、と
読んで貰ってる。 この時ワシ、たった十一歳だぜ。



これも又、家の運命の屈折する兆(きざ)し ・・・・ ではある。



 *       *       *



< 遺産相続戦争に負けた父の晩年は、悲惨だった。>


ワシの父伊一、晩年は闊達 ( かったつ ) さを失い、愚痴ばかりの、じじい、
と成った。 日がな一日、ワシに向かい、毒でも吐くが如く、

親と兄弟妹を、ののしる毎日だった。 際限の無い、愚痴だった。



ワシも、これには、つくづくと愛想が尽きた。 そんなに恨(うら)みが有る
なら、仕返し、すれば良いだろう。

ワシがこう言うと、 仕返しは、いかん。 仕返しは、いかん。 と言う。



なれば、悪口やら怨念。 いい加減にしろよッ

ワシがこう言うと父、わしの気持ちを分って来れぬ ・・・ 情けない顔をした。
だけどね、聞かされてるワシの身に、成って見ろ。 毎日毎日だ、堪らんぜッ



父との晩年の毎日が、この繰り返しだった。 ワシ思うに、相続の後、すみやか
に、兄弟の関係を断絶すべきだったと思う。

祖父の弟も、遺産相続戦争に負けるや、その時点で兄弟の関係を断絶しとるのだ。
父は、その点で煮え切らなかった。

ぐだぐだと金魚の糞じゃあるまいに。 息子相手に愚痴なんか並べて、
どう成るってんだ?



ワシ、父がいよいよと言う刹那、生と死の境界線の辺り。 言ってやった。
オヤジ、心配すんな。 かたきは取ってやるから。

若き日の父、釣りキチの活発な男 ( おのこ ) だった。 遺産相続戦争に
負けた頃から人格が変化した。

晩年の十年、際限の無い泥沼のような愚痴の人となった。 こっちまで気が変に
成った。



さて、この段の終わりに、ある叔父が、ワシに言うた事を書く。
いかにも久治良家の遺産相続戦争にふさわしい内容では、なかろうか?



 *       *       *



< ある叔父、兄弟の真髄を、ワシに語る。>


兄貴(長男)言うものはなあ。 土地とお金が有れば、自分は一切取らない。
弟や妹に、全部分ける。 その度量が、兄貴じゃないか。

困った時。 お金が要る時。 責任を取らねばならぬ事が有れば、兄貴一人で
全部引き受ける。 それが兄貴じゃないかッ



それを、兄貴は何だッ  兄貴らしい所、ひとつも無かったぞ
わしは、兄貴に恨みを持ってるんだ。 わしは仕返し、してやろうと思ってるッ

この兄貴とは、ワシの父ではあるぞ。 底抜けお調子者の言だと思う。



こんな弟妹と、何が親戚であるか? 関係を断絶すべきだと君ら、思わんか?
上の言葉を吐いた叔父。 その身に必ず何かが起こる、とワシは断言す。

諸君ら、どう思う? 叔父の言葉、正しいか?



 *       *       *



四郎叔父 ( 土田俊策 ) の、警察官に成った経緯の文から、思いも由 ( よ )
らぬ波紋が起こった。 小松市長だった 和田伝四郎翁である。

次段では久治良家の残りを書き、段を付加して、和田伝四郎元市長について書く。




*       *       *



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